「コーヒーはブラックで飲むものです!」

 声には出さないものの、明らかに、そのように顔で私を
諭したはしたものの、次には満面の笑顔でミルク壺に入
れたミルクを持ってきてくれました。

 (何だ。あるんじゃないか。)

 正直な私の感想です。それなら最初から持ってきて欲
しいというのが、想いの中に含まれています。でも、そこ
は大人なので、平静を装っていました。そして、ミルクを
注いだ時、私はちょっとした恐怖に襲われたのです。
 以前、アイスコーヒーを頼んで大変な目に遭ったことを
私は想い出していました。ミルクは入れても甘味料を入
れない私は、シロップのたっぷり入った甘いアイスコーヒー
を飲まされたことがあったのです。
 ひょっとして、この店のアイスコーヒーも、甘みだけは
しっかり入っているのではないかという恐怖が、私を襲
ったのです。でも、杞憂でした。

 恐る恐るストローから飲んだアイスコーヒーは、ミルク
に馴染んだ、甘さのない、私好みの味になっていました。
そこで、私はアイスコーヒーを持ってきた人が、目で語っ
ていたことが本当だと思えたのです。

 「コーヒーはブラックで飲むものです!」

 私は、このような主張のあるお店はいいなぁと思いま
した。もっとも、今度訪れた時も、ミルクはお願いしよう
と思っているのですが。