私は、小説家として失格ではないかと思うくらい、楽観
的な人物であり、精神的ストレスが少なく、精神的スラン
プも数えるほどしか経験していません。
 だからこそ私は、未だに納得のできる作品を書くことが
できず、無名に甘んじているのではないかとさえ言うこと
ができるのだと思えるのです。

 そのことを哀しいとも思わず、むしろ、自分の美徳だと
さえ思いかねないところに、私の重篤な精神構造がある
のですが、楽観的な私が、そのことで思い悩むことはあ
りません。
 ただ、淡々と描き続けること。それが私の唯一の強み
であることを、私は哀しいけれど悟っています。その中
で名作が生まれるのかどうかが、私の将来を決めるの
だと思いながらも、自分は、「そのような星のもとに生ま
れてきた」などと、根拠のない想いに、一日中しがみ付
いているのです。

 そのような思い上がった私の本性が、ここ暫く、「化け
の皮が剥がれた」ようになっていたとしても、何の支障
もありません。どうせ、何をしなければならないか、よく
わかっているのですから、もう少しすれば、また、いつも
のような高慢ちきな似非作家が戻ってくるのでしょう。
 どうせあとわずかですから、もう少し、人間らしい精神
状態に甘んじることにしましょう。そして、そのような弱さ
を忘れないことです。そうすれば、私の小説も、少しは、
人間らしいものになってくれるのではないかとの期待を
込めて。