この世の中にあること、起こっていることなどは、すべて

幻想なのではないか?たとえ幻想ではあっても、そのこと

自体が存在していることは確かなのだから、幻想と言って

も、そのものは現実なのではないか?

 このようなことは、特に思春期の頃に多くの人が悩んだ、

人生に対する諸問題の中で、最も基本的なテーマの一つ

だったのではないかと思います。私も人並みに、そのよう

なことを考えていた記憶があります。

 ところが、そのような大切なことでありながら、いつの間

にか忘れてしまったような気がするのですが、それは、何

事にもズボラな私だけなのでしょうか?


 目の前にあることや、起こっていることが、幻想であろう

が現実であろうが、生き方に変わりはありません。だから

かもしれませんが、この問題は、解決しないまま放ってお

いても、何の支障もなく生きることができるのです。

 けれども、人生の後半に入って、思春期が蘇ったような

思秋期に至ると、私は再び、この問題を考えるようになり

ました。


 「現実と幻想」という表題にしなかったのは、このテーマ

を再考するに当って、私の視線が、より強く現実より幻想

に注がれているからです。

 つまり私は、この世の中は幻想であり、現実などはない

か、あったとしても、ほとんど意味のないものではないかと

思うようになったのです。