女の家は男の家よりも歴史が古く、誰にも負けない自信
と誇りを持っていた。ただ、あまりにも高い自尊心が、外に
対する意識を希薄にしたため、明治維新によってもたらさ
れた新しい風に無頓着すぎた。
それが女の家が没落し始めた理由である。もともと世間
に対する関心が薄い家だった。男の家とは隣同士なのだ
が、両家の間に小さな川が流れているので、それほど親し
い付き合いはなかった。
むしろ、女の家の関心は、男の家とは反対側にある隣家
にあった。時には世話になり、時には争いごとに巻き込まれ
たりしていたが、振り返ってみれば、上辺だけの付き合いに
終始していたように思われる。
当時、大きな家には家長がおり、その存在が家の絶対的
な権威となっていた。女の家も例外ではない。ただ、祖父と
父の間に相克があったことを忘れてはならない。
女は1897年に生まれた。男よりも8歳年下だった。従順な
性格のように見えたが芯は強かった。正義感に溢れ、喜怒
哀楽のはっきりした性格だったけれど、普段は大人しくして
いた。その意味では目立たない女性だった。
(私は、家のために生きなければ。)
女は、学校で教えられることより、両親や祖父母から言わ
れることを大切にしていた。「長幼の序」や「朋友の信」など、
儒教の五倫についても、女は厳しい祖父から学んだことだ。
[ご参考] 「五倫」の wikipedia です。