私の記憶に残っているのは、私の母の姿を見て刀を捨て
た悪童たちです。そのとき、母が怒っていたのかどうかは、
忘れてしまいました。子供たちの豪遊に気付いていたのか
どうかさえ定かではありません。
ひょっとすると、幼い子供たちが豪遊しているということを、
ご近所の人から、そっと耳打ちされたのかもしれません。私
が幼かった当時には、ご近所の目が、教育や躾けの一翼を
担っていましたから。
刀を捨てたことは、その情景だけではなく、気持ちも覚えて
います。やはり悪いことをしているとの意識があったのです。
その現場を押さえられて、とにかく、その悪いことで手に入れ
たものを手から離すことで、免罪になると思ったのです。
蜘蛛の子を散らしたように、悪童たちは、思うがままに走り
去ってしまいました。後に残されたのは、捨てられた刀と、私
と母だけです。
それから二人はどうなったのでしょう。ここから私の記憶は、
あやふやになってしまいます。母が刀を拾って、二人で家に
帰ったような気がします。お説教もされたはずです。けれども
その内容は、さっぱり思いださないのです。
主犯である従兄は私よりももっと叱責されたはずです。お金
が小遣いであるにせよ、大名のような使い方は、やはり従兄
の家でも禁じられていたのです。何が、彼をそのような豪遊に
誘ったのか、今もって謎のままです。
幼き日の平凡な時の流れの中では、ちょっとした事件でした。
あまりいい想い出でもないので、その後、このことについて母
と話したことはないのですが、亡くなってしまった今頃になって、
その時の気持ちを、少し聞かせてほしいような気がするのです。