大好きなドイツロマン派の作曲家であるにもかかわらず、
私は、あまりにもシューマンから遠ざかっていました。彼が
嫌いだったのではありません。むしろ、あまりにも早く知り
すぎていたのです。
私に初めてシューマンを紹介してくれたのは、中学時代
の友人でした。まだ、私がクラシック音楽を聴き始めてから
間もない頃のことです。その時、何を聴いたのか、もう今は
忘れてしまいました。確か交響曲の一つだったと思います。
ベートーヴェンの「合唱」やチャイコフスキーの「悲愴」など
に夢中になっていた私には、シューマンの魅力に気づくこと
ができませんでした。それで、私の嗜好は、シューベルトや
ドボルザークへと向かったのでした。
ですから、今でもシューマンの音楽を知りません。わずか
に私が知る彼の音楽の中で、この有名なピアノ五重奏曲は、
ストレートに心に響いてくる曲です。シューマン研究は、これ
からの愉しみです。
第一楽章の冒頭から、人生への激しい意気込みと優しさ
に包まれます。この緩急の対比は、この曲の全体を覆って
いるものです。まるで、シューマンの人生の栄光と挫折を、
予感させているようです。
第二楽章では、野太いヴィオラの音に惹きつけられます。
その音のためだけに、この曲を演奏したいと思わせる魅力
に溢れた一節です。語り合う五つの楽器の中で、ヴィオラ
がこれだけ目立つ曲想は、それほど多くはないのです。
第三楽章は、騒がしく諧謔的なテーマと、静かで粛然と
したテーマが特徴的に表現されます。もちろんスケルツォ
ですから、ベースは勢いのある楽想なのです。けれども、
それだけに、余計、緩徐の一節が際立つのです。
続く第四楽章は終楽章に相応しく、全曲に統一感を与え
てくれます。それは、最後になって、明確な形で第一楽章
の主題が再現されていながら、フーガで新しく変容した姿
を見せてくれるからに違いありません。
[ご参考] アルゲリッチとマイスキーの名演ですが、チェン
のヴィオラ演奏も特筆ものです。
http://www.youtube.com/watch?v=GAUVncDKFRo&list=PL85DF85CBD3946DD9&index=49