ずっと私は、ベートーヴェンが生涯を懸けて、我が子の

ように、歌劇「フィデリオ」を、渾身の想いで作曲していた

ことを知りませんでした。

 それまでの私は、絶対音楽の魅力に取り憑かれていた

こともあり、あまり関心を持っていませんでした。せいぜい、

レオノーレ第三番とフィデリオ序曲だけを、単なる普通の

管弦楽曲として聴いていた程度です。


 けれども私は、ロマン・ロランの「レオノーレ」を読んでから、

すっかり「フィデリオ」に対する想いが変わりました。この曲

こそ、ベートーヴェンの魂が最も籠められた曲であることに、

ようやく気付くことができたからです。

 曲そのものの崇高さだけを言うのなら、ミサ・ソレムニスや

弦楽四重奏曲第十五番の第三楽章の方かもしれません。

けれども、ベートーヴェンの愛が詰まった作品は、間違いなく

「フィデリオ」だと思うのです。


 だからこそ、「一小節たりとも12回以上書き直されないもの

はない」とか、「18のスケッチがある」(いずれも、長谷川千秋

著「ベートーヴェン」岩波新書)とか言われるような、何回もの

推敲を、ベートーヴェンはしているのです。

 序曲も、今日聴くことができるものだけで四曲あります。

それは、不出来との評判にも後押しされて、ベートーヴェン

が書き直したものです。


 一度、同じ指揮者・管弦楽団で聴いてみてください。その

ような想いで四曲を聴き通すと、ベートーヴェンの血の滲む

ような苦労の跡が聴こえてくるではありませんか。

 

[ご参考①] コンヴィチュニー指揮ゲバントハウス管弦楽団

        レオノーレ第一番、第二番です。この画面から

        引き続きレオノーレ第三番、フィデリオ序曲に

        アクセスできます。

         http://www.nicovideo.jp/watch/sm15059226


[ご参考②] レオノーレ第三番、フィデリオ序曲です。

         http://www.nicovideo.jp/watch/sm15059541