歌劇ですから、「フィデリオ」には物語があります。まず、

この筋書きについて説明しなければなりません。私は、

いやしくも文学者のつもりですから、本来であれば、要約

に関しては自分で語るべきだと思っています。

 ところが、とても素晴らしい要約があるのです。かなり昔

のものですが、これ以上のものを書く自信がありません。

そこで、岩波新書の長谷川千秋著「ベートーヴェン」から

引用することにします。



 「スペインの州監獄の長官のドン・ピツァロから怨みを受け

貴族フロレスタンは、土牢に投ぜられ、死を宣告される。

フロレスタンの妻のレオノーラは、フィデリオと名を変えて、

男装して、入り込み、獄卒のロッコの娘と親しみ、その手蔓

で、監獄の中へ入り込む。ピツァロはフロレスタンを殺すこと

を計画する。それは、ピツァロの横暴が内務省に聞こえて、

内務大臣のドン・フェルナンドが調査に来ることになったので、

フロレスタンを口無き死人となすための謀である。フィデリオ

はフロレスタンを埋める穴を掘るためにシャベルを振い、ロッコ

はフロレスタンを率いてくる。ピツァロがフロレスタンを殺そう

とする。フィデリオが立塞がる。ピツァロは両人を刺そうとする。

その時、トランペットが鳴って、ドン・フェルナンドが到着する。

夫婦は助かる。ピツァロは罰せられる。」



 もともとは、「レオノーレ」と名付けられた歌劇でした。ところが、

ベートーヴェンより先に同名の歌劇を作曲した人が二人もいた

のです。やむなく、レオノーレが監獄に忍び込むために使った、

偽名の「フィデリオ」にしたそうです。

 ベートーヴェンは、この表題を気に入らなかったようです。私が

作曲をするとしても、相応しいのは「レオノーラ」だと思います。

ですから、ベートーヴェンの悔しさには共感できます。この歌劇

の不幸は、ここにも姿を見せたのです。



 この物語は、実話が元になっているそうです。フランス人の

原作者が、「フランス革命に触発されて人類の理念となった

<正義と愛と自由>」(青木やよひ著「ベートーヴェン」)を謳っ

たものだったのです。

 それが、ベートーヴェンの琴線を鳴らし、亡くなる直前まで、

こだわりを持ち続けた理由だったのです。



[ご参考]フィデリオのWikipediaです。後半に詳しいあらすじが

      記載されています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%87%E3%83%AA%E3%82%AA