著者    家永三郎

出版社   岩波現代文庫



 私が底本として取り上げる本の中では、この作品はかなり

特徴のあるものです。客観的に書かれた歴史書というよりは、

少し偏った部類に入るのかもしれません。

 著者は、教科書裁判で有名になった人です。反権力的との

評価が定着しているようですが、もともとは保守的だったよう

です。学士院の恩賜賞を受賞したり、天皇への御進講なども

していたようです。


 著者がこの本を執筆した動機が「日本の歴史上、未曽有の

深刻な『戦争の惨禍』を正しく認識することによって、悲劇の

再来を阻止しなければならないという念願」にあったことが、

私の戦争に対する想いにシンクロしています。

 研究不足の私には、南京大虐殺、731部隊、沖縄自決問題

など、まだ真実がどうだったのか、皆目わからない状態です。

その意味では、少し偏りがあると見る人もいる本書だけで論じ

ることは、避けた方がいいのかもしれません。


 ただ、この本は、太平洋戦争を十五年戦争と捉え、1931年

に起こった柳条湖事件から考えていること、戦争阻止ができ

なかった理由を解き明かそうとしていることなど、戦争を大局的

な観点から研究しています。

 これらは、私が考えようとしていることと一致しているのです。

それが、私がこの本を底本にした理由です。