三年間の隠遁生活を標榜している私には、世間の時の流れ

とは無関係な生活が送れるはずでした。私の人生において、

この期間は、自分の文学的な思想や書くための地力を矯める

ために、なくてはならない時間なのです

 ですから、11月なのに街でクリスマスソングが流れていても、

年末恒例の年賀状が発売されても、私は泰然自若としていま

した。自分がやらなければならない仕事に対して、一心不乱に

精進してきたのです。


 ところが、その精進の結果も中途半端なまま、もう、二年半が

過ぎようとしています。私の計画では、来年の7月から、四年と

いう時間を、小説の取材に投じる予定にしているのです。

 私は、そのための準備を、残された半年余りの隠遁生活の間

に、やり遂げなければなりません。すると、その思いが、大きな

プレッシャーとなって私の眼前に迫ってくるのです。

 もちろん、それは心躍ることでもあります。人生の新しい局面

勇躍する自分の意欲ですから、それを頼もしくも思っているの

です。ただ、青春時代とは違います。やり直しができないという

ことが、私の心を圧迫し、小さな胸を押し潰そうとするのです。


 私が、このような心境にあるにもかかわらず、今日は昼から

雑事を処理するために外出しなければなりません。こうして、

空転する、私の貴重な時間が哀しくも過ぎていきます。


 読み返してみると、思いがけなく愚痴になってしまいました。

私の最も嫌うのが愚痴です。それなのに、師走の風が冷たく

私の身体に吹き付け、私が必死になって装っていたカラ元気

を、遠くに飛ばしてしまったのでした。