さて、私が是真のどこに惹かれたのかというと、何よりも

遊び心を持つ余裕です。私は鬼気迫るような、渾身の力を

振り絞った芸術作品も好きですが、遥かな技量を予感させ

る余裕には、もっと圧倒されてしまいます。

 それに加えて、是真の構図には、軽妙洒脱なアイデアが

閃いています。漆の性格を知り尽くし、画家としてのセンス

にも恵まれた、是真ならではの作品が多く生まれたのは、

才能と努力が共存したおかげだと思うのです。


 是真を知る、ついこの前まで、私にとっての「漆」と言えば、

「カブレるよ」と注意してくれた、母の言葉ばかりが想い出さ

れるものでした。昔の雑木林には、思わぬ場所に漆の木が

あって、腕白たちの腕や首回りを大きく腫らしたものです。

 もう一つ、私が漆と縁があったのは、愛用していた弓が、

漆塗りだったことです。握りの部分の少し上部に、「知静」と

金文字が入っていました。

 中学三年生が持つような弓ですから、それほど高価なもの

ではありません。それでも、私を戦国武将の気分にさせるに

は充分でした。


 そのような乏しい知識しかない私が、テレビ画面に映った

是真の「富士田子浦蒔絵額面」を観た時に、どれだけ驚いた

ことか。まことに、私は言葉を失いました。


[ご参考①] 富士田子浦蒔絵額面

http://www.exblog.jp/blog_logo.asp?slt=1&imgsrc=201001/17/04/b0044404_21574311.jpg


[ご参考②] 蒔絵に詳しい方の素晴らしいホームページです。

http://makie-museum.com/mzeshin.html