室内楽の中で、ピアノ三重奏曲は弦楽四重奏のような調和の

とれた編成でないにもかかわらず、名曲が多いのはどうしてで

しょう?ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ドボルザーク

など、ロマンティックな曲が溢れています。

 弦楽器とピアノは、音楽的には相容れない組み合わせだと聞い

たことがあります。確かに、音質が異なるため、どの瞬間をとっても

お互いの音が溶け込むことがありません。けれども、そこに微妙な

緊張関係が生まれ、聴く者の魂を揺さぶるのだと思います。


 この曲は、最初に、独奏ヴァイオリンが重々しく語りかけます。

そこには、過酷な運命を呪いたくなる気持ちから、一生懸命耐えて

いる姿が浮かびます苦渋に満ちた心から、優しさを絞り出そうとす

る努力は、悲劇の中にいる人間の気高さをさえ感じさせるものです。

 それでも、第一楽章の終わりには、さすがに乱れる想いが募り、

前のめり気味テンポアップするのです。


 第二楽章に入っても、不幸を克服しようとする意欲は衰えません。

繰り言は抑制されながらも、何度も繰り返されます。それでも、心

の痛みに耐え、慟哭の中で立ち上がろうとするのです。


 第三楽章は、まさに想い出と悲嘆の鎮魂歌です。ここに至っては、

もう、これまで堰き止めていた感情が迸ります。そして、葬送の響き

から、高らかに人間の生の賛歌を謳いあげるのです。

 悲しみを見事に昇華したあと、最後にもう一度だけ、想い出が甦る

のですが、もう、そこには安らぎが見えています。


 スメタナは、この曲について「最初の子フレデリカの想い出。彼女

の類い稀な音楽的才能に魅せられたが、彼女の命は儚く、四歳半

の短さで閉じられてしまった。」(拙訳)と注釈しているそうです。