協奏曲では、ピアノを独奏楽器にしている作品が圧倒的に
多く、次いでヴァイオリンというのが一般的だと思います。そ
れにもかかわらず、最初に、このドボコンと言われる協奏曲
を紹介するのは、まったく私的な理由からです。
三十代の前半、私はあるアマチュアオーケストラで第1ヴァ
イオリンの末席にいました。スメタナのモルダウを弾いて、
とても幸せな気持ちになっていた頃のことです。
そのときに演奏する機会があったのが、このチェロ協奏曲
でした。ソリストには比較的有名なプロの方が招聘されました。
全員、心を一つにして練習しました。
いつものことながら、私は充分弾きこなすこともできないのに、
美しいメロディに酔いしれていました。第三楽章で独奏ソロと
ヴァイオリンソロとの絡み合うところは、自分で弾いてみたいと
まで思いました。もちろん、これはコンマスの仕事なのですが。
ところがある日、私は弦楽器の指導者であるコンマスから、
「あなたは、ドボコンでは降り番でお願いします。」と言われて
しまったのです。独奏チェロを浮き上がらせるため、小編成に
するというのが理由でした。
私の実力からすると、非常に妥当な措置でしたが、好きな曲
の舞台に上がれず、やはりそれなりのショックを受けました。
それ以来、この曲を平常心で聴くことができなくなりました。
いつも自分が、後ろの隅で弾いているつもりになるのです。
すると、独奏チェロを自分が支えているような気になり、音楽
づくりに参加している錯覚さえ抱くことができるのです。