この名曲を聴いたとき、もう私は四十歳を超えていました。

このロマンティックな曲を、若い時に聴かなかったことを、

どれだけ残念に思ったことでしょう。若くて鋭敏な魂なら、

もっと深く心に響いたのではないかと思えたのです。

 それでも、この曲は私が愛する音楽の中でも、最も価値

ある作品の一つになりました。若い時の作品を、35年も

後の晩年に改作したことが、作品に普遍性を与えている

のかもしれません。


 この曲に、あまりにも熱中した私は、拙いヴァイオリンで

あることを忘れ、合奏しようとまでしました。弾けないところ

を省略しても、合わせるのが難しいブラームスは、散々な

結果に終わりました。情けない想い出です。


 自分のことは棚に上げ、この演奏だけは演奏者を選び

ます。カッチェン(pf)、スーク(vn)、シュタルケル(vc)でなけ

ればなりません。特にシュタルケルのチェロは、まるで

ブラームスの肉声を聴いているような気になります。