『ダブラフェニブメシル酸塩カプセル(以降 ダブラフェニブ)及び、トラメチニブジメチルスルホキシド付加物錠(以降 トラメチニブ)の適応拡大を目的とした医薬品開発リスト掲載に関する要望書』 が、NPO 法人脳腫瘍ネットワーク(JBTA)、小児脳腫瘍の会、小児脳幹部グリオーマの会、「小児脳幹部グリオーマ」シンポジウム開催実行委員会トルコキキョウの会、にじいろ電車(東京女子医大病院脳神経外科家族の会)など患者会から、「治験・臨床試験を機動的かつ円滑に実施するためのサポート機能に関する研究」を研究実施する日本医師会に対し提出されたようです。

JBTAのホームページなどで記載されています。
JBTA始め各種、脳腫瘍の患者会、家族会のご尽力には深く感謝します。

要望書内にもあるように、現在、グリオーマの化学療法は、テモゾロミド及びベバシズマブ(アバスチン)という薬剤に限られいます。

再発時には有効な治療法も確立されていません。
この要望小の提示により両薬の承認が実現を仮にしたら、BRAFV600E変異が認められるグリオーマ患者には、ダブラフェニブとトラメチニブによる保険治療選択肢拡大がのぞめます。

ダブラフェニブはBRAF阻害薬で、トラメチニブはMEK阻害薬で、いずれも分子標的薬です。

どのような薬であるかを説明するにはBRAFという遺伝子についてから、まず、ご説明をする必要があります。
BRAF遺伝子とは、細胞増殖の指令の伝達に関わる遺伝子です。

このBRAFの600番目のアミノ酸はバリン(V)と呼ばれる必須アミノ酸でV600といわれますが、この遺伝子が変異によりグルタミン酸(E)になるとBRAF遺伝子V600Eになります。
この状態になると、腫瘍細胞に増殖しろという命令が出し続けられ、腫瘍が無秩序に増殖し続けます。
BRAF阻害薬であるダブラフェニブは、BRAFのV600E変異によるがんの増殖を抑える薬です。
ただ、BRAF阻害薬を単独で投与すると、BRAFの下の細胞分裂に関わるMEK遺伝子が上流のRAS遺伝子などのに対する機能を抑えていることまで障害されます。
どういうことかというとMEK遺伝子も同時に制御yしないと、腫瘍細胞はかえって大きくなったり、別のがんが発生しやすくなります。
なので、MEK阻害薬であるトラメチニブを併用するとそういった弊害が抑えられるため、非扁平上皮がんでBRAFV600E遺伝子変異陽性の人の薬物療法は、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が第一選択になっています。
このため、ダブラフェニブとトラメチニブは既に、BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫、BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して国内外ですでに薬事承認されています。

現在この2薬については、国際共同試験(第2相)が実施され、BRAF変異を有する低悪性度・高悪性度神経膠腫患者58人における、ダブラフェニブとトラメチニブによる併用療法の第 2 相臨床試験が、日本を含む国際共同試験として実施され、低悪性度神経膠腫において69%、高悪性度神経膠腫において33%と極めて良好な奏効率が示されています。
同試験では投与後の安全性も他の適応症と同等であり、BRAF遺伝子異常を有する神経膠腫の患者に対して光明をもたらす治療になり得ると期待されている状況です。

「BRAFV600E遺伝子変異陽性」については、どのようなグリオーマの病理で発生するるかをまとめます。

若い成人の間脳(視床,視床下部)に好発したり、大脳表面に発する場合のある類上皮膠芽腫で約半数にBRAF V600E遺伝子変異があるといわれます。
DIPGなど脳幹グリオーマなど、まれにBRAF-V600E変異陽性がある場合も稀にあります。

その他、グリオーマのうち、稀なグリオーマばかりですが、
脳脊髄膜 leptomeningesに広範囲にびまん性に存在するDiffuse leptomeningeal glioneuronal tumor DLGNT(旧 disseminated oligodendroglial-like leptomengeal tumor)
乳頭状頭蓋咽頭腫 papillary craniopharyngioma
視神経,視交叉,視床下部,視索、内包,視放線までを侵す、視神経膠腫,視路毛様細胞性星細胞腫,視路視床下部毛様細胞性星細胞腫(optic glioma, optic pathway glioma)
赤ちゃんから小さい子どもに多い一般的には視神経膠腫(optic glioma)、正確には視路視床下部毛様細胞性星細胞腫
毛様細胞性星細胞腫、頭蓋咽頭腫 craniopharyngioma などにBRAF-V600E変異陽性が発生します。

BRAFV600遺伝子変異は、IDHのようにグリオーマの多くを占める変異などではありません。
病理的には良性に近い脳腫瘍、特に小児や若い人に発生する遺伝子変異のようです。
ただ、小児膠芽腫など(成人膠芽腫は稀)の高悪性の病理のグリオーマにも発生する場合もある変異です。

現在、未承認のままでも、遺伝子パネル(約50万円)を利用し、BRAF-V600E変異陽性が病理としてわかれば、ダブラフェニブとトラメチニブの投薬治療は、他の癌でも承認済みの薬ですし、治験も実施していますし受けれると思います。
一方この薬は、DIPGのようになかなか生検を受れない箇所の腫瘍に、遺伝子変異を調べずにちょっと試し使ってみようか?という薬ではないので、使用の際はBRAF-V600E変異陽性であることが前提です。
副作用が心停止をともなう各種心障害や、各種悪性癌の発生や増殖など、重大な作副作用も多いので遺伝子変異は、前提の薬だからです。

また、この申請は日本医師会に使える薬として承認してとお願いした内容であり、まだ承認を受けたわけでもありません。他の癌等では使われている薬で期待はしますが、まだ、なんとも言えない申請段階のものであることはご了承ください。