いよいよ今年も年末を迎え、3月から始めたブログも今回で19回となった。この間長々とした駄文にご迷惑をお掛けした方々もおられたかもしれませんが、年寄りの能書として、ご容赦願いたい。

 そこで今回は今年最後のブログとして、交通と関係がないかもしれないが、スティーブ・ジョブズが示した「日本語でしか表現できない七つの言葉」を紹介する。新年を迎えるにあたって、日本人の持つ素晴らしさを、改めて感じ取ってほしい。

最後に皆さま良いお年をお迎えください。

1.わび、さび

 「わび、さび」とは、質素で簡素な美しさといった意味合いである。抽象的で日本人でも感覚でしかつかめない言葉であるが、多くの日本人が「わび、さび」の美しさを感じることができる。外国では「わび、さび」の意味を理解できる人はいない。

2.もったいない

 海外の言葉では表現できない単語の一つである。海外では、そのまま「MOTTAINAI」と表記されている。2004年にノーベル平和賞を受賞したケニア出身のワンジリ・マータイさんが環境を守る世界共通語として「MOTTAINAI」を広めることを提唱し、注目を浴びた。マータイさんは日本語の「もったいない」という言葉を知り、この言葉の意味に該当する別の言葉を他言語に探した。しかし、「3R+Respect」という精神のすべてを網羅する言葉を「もったいない」以外には見つけることはできなかった。

 「3R」とは「Reduceゴミ削減」「Reuse再利用」「Recycle再資源化」のことを指し、最後の「Respect」は、かけがえのない地球資源に対する尊敬の念を表している。

 マータイさんはこれらの意味のすべてを包含するのが「もったいない」という言葉だと定義した。こうして、日本語が大切な精神として世界から注目を受けたことは、とても誇らしいことである。

3.切ない

 「切ない」は、海外の言葉ではほとんど表現できない単語であり、強いていうならばポルトガル語のサウダージ(saudade)などが意味合いとして近いが、胸を締め付けられるような、あのぐっとくるなんともいえない感じは「切ない」でしか表現できない。

4.いただきます

 私たち一人で食事をする場合にも「いただきます」と手を合わすが、それに一致するような行為や言葉は、世界広しとも言えども日本だけである。

 アメリカ映画などでは食事の前に神様へお祈りをするのを見かけるが、それも敬虔なクリスチャンの家だけである。普通は「食べよう」と言って食べたり、何も言わなかったりする。フランスでは、「bonappetit/ボナペティ」のように、作った人が「召し上げれ」ということも多いようである。中国や台湾では家族だけの食事の場合は「食べるよ」と声をかける程度である。お客様を招いての食事の場合には、主人が「召し上がれ」と声をかけ、招かれた人は「遠慮なく食べます」と答えて食べ始めるのが礼儀のようである。

 日本語の「いただきます」のように食材を作ってくれた人への感謝の言葉という意味合いはどこの国にもない。日常的に「いただきます」と使っている私たちにとっては、その言葉が当たり前のように思えるが、外国人にとっては、日本人の食事に対する向き合い方を含め感謝する言葉なのである。

5.一人称(僕、私、俺など)

 日本語を初めて学ぶ外国人がまず驚くのは、日本語に自分のことを指す言葉である一人称の種類が多いことである。たしかに「私」「僕」「俺」「わし」「おら」「おいら」「あたし」「うち」「わたし」「小生」「吾輩」「拙者」など本当にさまざまで、外国人は戸惑うし英語なら「I」ひとつで済むのに、日本人はなぜこんなにもたくさんの一人称を使うのか。その答えは逆説的であるが、日本語が一人称を普通使わない言葉であるからである。

 会話の中で「私」を繰り返すと、自己主張の強い人だなあという印象を聞いている人に与えてしまう。日本語で一人称を使うのは、特別に必要なときだけである。だからこそ数ある一人称の中から一つを選んでそこに特殊な意味を込めるのである。

 日本語で大事なことは「何」を言うかよりも「どう」言うかだといわれている。数ある一人称の中からどれを選ぶかで、その人自身のキャラクターを示し、その場の空気に影響を与え、さらには社会の空気を生み出すのである。この一人称の選方が日本語の難しいところであり、面白いことである。

6.初心

 最初に思い立ったときの純粋な気持ちを表す「初心」という言葉がある。ジョブズ氏もこの言葉を「日本にある素晴らしい言葉。初心を持つことは素晴らしいことだ。」と褒めたたえた。ビジネスの世界で「初心」とは顧客の視点や素人の目線になることは、キャリアを積んだ管理職やスペシャリストになるにつれ、初心というものを忘れがちになるが、日本では「初心忘るべからず」という言葉がある。

 この言葉を最初に使ったのは、室町初期の能楽師、世阿弥である。長い歴史の中で使われ続けられている「初心」は、世界からすれば珍しく素晴らしい言葉だったのである。

7.おかげさまで

 「お元気ですか」「ご家族の皆様はお元気ですか」と尋ねられると、「おかげさまで元気にしています。」と返答する。きっと多くの人が謙虚な姿勢を表す言葉として、何気なく使う言葉の一つである。そして「日本人の心」があるのである。

 現代のようなテクノロジーや文化などがなかった時代は、日本人は自然の中で生き抜いてきたのである。天災や自然災害の多い日本では度重なる苦難の結果、人は自然の逆らうことを理解してきた。その結果、古来日本では山川草木には、神や精霊が宿るとして、すべてのものに対して「感謝」と「畏怖の念」を持って崇拝してきた。これが日本のアニミズムというものである。

 思うように支配できない大いなる自然や力や恵を前にして平和な生活に感謝して生きてきたのである。「おかげさま」という言葉には、自分自身を内省し目に見えないものへの感謝するという言葉だけでなく、次の新たな一歩を踏み出す原動力も含まれているのである。

 

 日本人は古来からもつ美しい「情緒」「伝統」を重んじる心がある。自然に対する繊細な感受性や美を重んじる心は、日本特有な文学を生んできた。中世文学では「もののあわれ」に貫かれたおり、すなわち人間の儚さや自然の中から美を発見している。また書道、茶道、華道などの文化を創り出すなど、なんでも芸術にしてしまう。こうした芸術を通じて、美とか礼儀を習得してきた。

 春には桜、秋には紅葉を楽しむ。また虫の音を美しいと感じ、秋の憂愁に心を静める。こうした日常は、古来から続けられている。すなわち日本人は、自然と調和し、自然を楽しみ、自然とともに生きてきた。

 スティーブ・ジョブズの七つの言葉の背景には、こうした日本特有の美しい自然感があった。ある意味では謙虚な姿勢を生んできた。しかし、日本語の言葉の美しさと奥ゆかしさを現代の日本人が忘れようとしている。改めて新年を迎えるにあたって、七つの言葉を読みながら、日本特有の美しさを感じてほしい。