少子化で日本経済にどのような影響を与えるだろうか。少子化が進めば労働力といった生産能力が下がり、市場規模も縮小する。財政面では、税収の減少要因となり、社会保障制度の維持が困難になる。高齢者の増加は、これに拍車を掛ける。

 通常、高齢者はそれまで蓄えてきた貯蓄を取り崩して生計を維持している。高齢者の比率が高まると国全体の貯蓄の割合が低くなり、企業などの設備投資にも影響する。このように少子高齢化は、労働力、資本の両方の面で経済成長の制約要件となる可能性が高い。

 そのため一人当たりの生産性を大幅に上げる必要があるが、介護サービスをみれば分かるように流通・サービス産業は、その性質上人手を要することから、生産性を高めるには容易でない。

 そこで今回は、2024年問題で注目を集めている交通企業を中心にその影響についてみることとする。

1.少子高齢化の背景

(1)激変する年齢構造

 今日の最も重大な問題は、破局的ともいうべき少子化の進行である。すでにヨーロッパと日本では、出生率が人口を維持できないところまで下がっている。人口の維持に必要な2.1をはるかに下回っている。2020年では、EUが1.5(フランス1.8、ドイツ1.5)、アメリカが1.6であるのに対し、日本は1.3と最も低い。22年には1.26まで下がり7年連続で前年を下回っている。その一方で発展途上国でみられる人口増加も目新しい問題ではない。こうした状況が続けば、いずれ金髪の人がいなくなるともいわれている。

 年齢構造では、実際に働いて生産を高める生産年齢人口(15歳から64歳)は、1995年をピークに減少している。国内需要に深くかかわる総人口も2010年を境に減り始めた。人口が減少しているなか、65歳以上だけが伸びている。

 この状態が続くならば、定年後の65歳以上の人口が圧倒的に多くなる。戦後のように出生率が短期的に大きく上昇する可能性はないでもないが、それでも生まれてくる子供が労働力になるのは、少なくても20年後である。こうした傾向は先進諸国共通した問題であるが、最も深刻なのは日本である。

(2)就業者の高齢化

 日本では上記で述べたように、概ね2000年以降定年後の人口が15歳未満の人口を上回り、その差は広がっている。高齢者(65歳以上)の就業者数は2004年以降増大し、団塊の世代が17年以降70歳に到達したことから、70歳以上の就業者数が増えた。

(3)子供にかかる費用の増大

 いまひとつ少子化に拍車を掛けているのが、子供にかける費用が増大していることである。近年の子供1人にかかる費用が、3、4人が普通であったころの費用の総額を上回るといわれている。こうした現象は先進国共通している。生活形態も、以前は専用主婦が普通であったが、現在では夫婦共稼ぎでなければ生活が成り立たなくなってきている。

 このことは少子化が進んでも親の可処分所得のうち、子供への費用は、減少しないということであり、むしろ増大することも考えなければならない。子供への費用の増大は、経済的理由で生みたくても踏み切れない、子育てより自分の生活が大切と感じる人々を増やした。また結婚しない人たちが増える要因になっているのかもしれない。

 一方で子供と触れ合う機会が少なくなり、子育てを知らない親世代が増えている。人口の変動は一国の経済を左右する。社会全体で子供を育てやすい環境を整備しなければならない。

(4)高齢化と少子化

 高齢者対策については、ある程度経験している。定年延長、フルタイムの転職やパートタイムとして働くなどの対処がとられている。しかし少子化問題について備えのできている国はない。そのため、少なくても20年から30年にかけて人口構造をめぐる諸問題が国家的課題となる。今や、日本を含め先進国では、あらゆる組織が、こうした状況を前提として考えなければならない。

 クルーグマンニューヨーク市立大学大学院教授(2008年ノーベル経済学賞)は、「日本がデフレになった基本的な原因が少子高齢化だと指摘している。期待成長率がマイナスの経済でゼロ金利制約にぶつかった場合は、名目金利がゼロでも物価が下がれば実質権利は上がってしまう。その結果デフレから脱却できなくなる。」と問題提起である(「少子に挑む」150ページ〔岩田一政〕、日本経済新聞社。2005年)。すなわち失われた30年と少子高齢化の関係である。

2.労働生産性

(1)GDPからみた特徴

 2022年のGDPの上位を占める国は、アメリカ(26.19兆ドル)、中国(19.24兆ドル)、日本(4.37兆ドル)、ドイツ(4.12兆ドル)である。これを一人当たりの順位でみると、アメリカ(7位)、中国(68位)、日本(31位)、ドイツ(20位)である。ただし23年ではドイツが日本を抜いて3位になる。

 ちなみに一人当たりの上位4位は、ルクセンブルグ、アイルランド、ノールウェー、スイスである。わが国において、経済が発展しても、ほとんどその実感がないのは、この両者の格差が要因となっている。

 この範囲でみる限り、日本はアメリカ、ドイツに比べて、人手のかかるサービスによって生産性を上げていることがうかがえる。事実、わが国のGDPの過半数を占める製造業、卸・小売業のサプライチェーンは、人手を要するジャスト・イン・タイム方式や宅配便など高度な輸送システムが前提となっている。またインターネットの普及に伴い、さらに手間のかかる消費者との輸送が増大した。これに伴い、購買力に相当する「時間」をめぐる競争が激化し生産性が低下した。

(2)有効求人倍率

 有効求人倍率(仕事の数と仕事をしたい人で割った値)は、2020年から始まったコロナ禍により倍率は急激に下がったが、その後持ち直し、23年10月は1.30倍に回復した。このように求人数が増えた結果、より好待遇を求めて、離職、転職する人が急増した。とくに宿泊・飲食や小売業や流通サービス産業などにおいて多くなっている。

人口が減少するなかにおいて、有効求人倍率が上がれば、さらにこうした傾向が促進される。とくにGDPの上位を占める製造業、卸・小売業のサプライチェーンを担っている流通サービスの離職・転職の増加は、今後の経済成長の大きな制約要因となる。

3.人手不足と物価

 離職・転職者が多い流通サービスのなかでも、最も深刻なのは交通労働に従事するドライバー不足である。車はある。しかしそれを動かすドライバーがいない。未曽有のドライバー不足は、とくに物流業界においては、全体の賃金を上昇させている。原油相場に関連して高騰するガソリン価格も物流コストを押し上げる。さらに世界的な原料価格の高騰が日本企業を襲い、値上げラッシュへと連動する。

 ここで問題になるのは、「賃金・物価スパイラル」である。賃金を上げた企業が販売価格を転嫁することでインフレが進行する。従業員はインフレで減った購買力を補うため、さらなる賃金アップを求める。賃金上昇が物価上昇を招き、物価上昇がさらに賃金上昇をもたらす連鎖「賃金・物価の悪循環」とも呼ばれる。

 物流コストの高騰が企業の利益を削り、消費者には痛手を与える。この連鎖を回避させるための政府の役割は大きい。

4.交通労働の特色

(1)労働条件

 交通労働は、即時財の生産に従事するので、ドライバーはまさにその生産が行われる時間に果たさなければならず、勤務時間が不規則になる。また社会の多くの人びとが休む日にも働かねばならない。

 さらに本源需要(荷主企業)の要請よっては休日にも働かねばならず、ドライバーは長距離を移動し家庭を留守にすることが多い。この種の労働は、一般に不人気で要員確保が困難になることがある。

(2)機械化労働と肉体的労働の調整

 いかに交通産業が成立し近代化が進んだとしても、なお原始的な移動手段に多く依存しなければならない。そのことが交通という産業の近代化の大きな制約となっている。

 こうした制約のもと、交通労働の生産性向上が図られてきたが、交通需要と交通生産の特殊な事情から、近代的交通手段と原始的交通手段に対応する機械化交通労働と肉体的交通通労働とが併存することとなった。景気の変動に左右されやすい交通労働者の安定的確保のために、併存する労働者の対応のあり方が課題となる。

(3)労働者能力の向上の要請

 交通労働は、運行管理、運搬具の取り扱い、通路の利用、移動の方法などの技術的な政策と労働時間、労働者確保などの労働者保護的な政策の両面での対応が求められるようになった。

 前者においては、とくに人命、財産、安全に関与する程度の高い運搬具を取り扱う者には、専門的でかつ高度な能力が求められることから、資格条件が必要となる。後者においては、とくに労働者確保、労働条件の改善が要求される。

(4)人手不足の分野と問題

 通常人手不足の対応としては、生産性を向上させるか労働力を確保することである。生産性はいつの時代においても、新しい技術や道具(ロボット)によって持たされてきた。経済学における資本の側の進歩であり、労働側にあたる働く者に関してはほとんど生産性の進歩はなかった。

 製造業や卸売業などの分野においては、新しい技術や道具(ロボット)によって、人手不足を上回るほどの生産性向上が図られている。今後もこうした傾向は促進される。

 一方交通産業は、機械化労働と肉体的労働とが併存する。前者は新しい技術が導入されるが、後者の典型であるドライバーなどは、その余地がほとんどない。このような労働者の生産性を高める方法は、より激しく働くかより長く働くしかない。まさに今日のドライバーの現状である。

5.対策と課題

 人手不足を補う手段としては、「待遇改善」「新規採用の維持・拡大」「非正規社員の増大」「定年延長」「定年退職後の雇用制度の見直し」「外国人労働者の雇用」などがある。しかし交通労働のなかでもドライバーにおいては、人命、財産、安全に関与するため、専門的でかつ高度な能力が求められる。

 またこれらの能力は、ほとんどの場合、現に彼らが働いている場所でなければ価値がない。持ち運びができない(即値材)。交通労働は、こうした性格を有しているため、労働力確保には通常の業種以上に制約が多い。

 このため交通労働の人手不足を緩和するためには、単独の施策では解決しない。複合的な施策が必要である。そこでここでは、これまでほとんど取り上げられていない次の3点について述べる。

(1)外国人労働者

 近年多くの分野で外国人労働者を受け入れている。なかには低賃金で外国人労働者に依存するところもある。しかし、こうした外国人労働者が母国に帰ったときに、果たして日本に対しどのように感じるだろうか。決して良い思いはしないはずである。適正価格という言葉は、販売価格だけでなく労働者への支払い賃金にも対応するものでなければならない。

(2)モーダルシフトの効果

 1987年国鉄の民営化に伴い、JR貨物が独立した企業として誕生して間もなく、貨物取扱量が急増した時期があった。その結果汐留や墨田川などの主要な貨物駅の拠点では、構内作業や集配作業で混乱を生じたことがある。

仮にモーダルシフトで鉄道の利用が増えれば同様な問題が生じる可能性が高い。そうなれば幹線輸送での人手不足が緩和されても、その反動は端末部分で生じる。貨物輸送はドア・ツー・ドアでその効果と問題点を比較しなければならない。

 いまひとつは、貨物会社の経営形態の制約がある。貨物会社はJR旅客会社の路線を借りて走っているので、旅客鉄道が利用しないときにしか運行できない。また、車両の大型化や長大化は日本の地形(勾配、トンネル)の制約があり、現状の規模が限界である。こうした制約のなか、はたして貨物会社にモーダルシフトによる貨物の受入れ能力がどれだけあるのか、線区別に精査する必要がある。

(3)規制緩和(オーナードライバー制の導入)

 現在の一般貨物輸送の許可を得るための要件にひとつに、保有しなければならない車両台数は最低5台と規定されている。この規定は1980年の規制緩和政策によって導入された。こうした規制があるのは、日本だけである。欧米では一人一車(オーナードライバー制)が認められている。

 人手不足の特効薬はない。そのため複合的な施策で対応するしかない。その一つとして、オーナードライバー制の導入を検討する意義があるのではないか。80年の規制緩和導入時においても、最低車両台数の規定について賛否をめぐる議論があった。

6.パートナーシップの確立

 企業形態としては、単独の場合とリーダー的企業が供給企業との契約によるグループ化の場合がある。後者の場合、リーダー的企業の存続は、供給企業の生産性によって左右される。

 ところが今日では、この両者間の契約は力関係を基盤にしている。リーダー的事業者は供給企業に圧倒的な大きな力を持っている。供給企業側の従属によって成り立っている。

 しかしこれからは、対等な力と独立性の持つ者の間に、真のパートナーシップの関係を確立することが重要である。両者ともこのための能力向上が最も基礎的な条件となる。