この章では、短期旅行者として、コロナに関連して、見たこと、感じたことを含め、到着初日の夜に関して、書き記しておく。ロンドン在住の方々から見れば、見方や感じ方も異なるだろうし、僕自身の誤解もあるということを予め含んで頂きたい。

 

ロンドンヒースロー空港からホテルまでの移動は、地下鉄を使うのが常。直通のヒースローエクスプレスならパディントン駅まで15分なので、地下鉄利用の1/3の時間で市内に入ることは出来るが、そこから地下鉄、バス、タクシーを乗り継ぐより、普段は経済的な地下鉄で移動することにしている。ところが、到着した日に関しては、土日を使っての作業でもあるのか、地下鉄のヒースロー空港発のPiccadilly Lineは途中までしか運行しておらず、バスが代替交通機関となっている。面倒だなと思ったが、体力も十分残っていたため、ヒースローエクスプレスは使わず、地下鉄に乗り、途中駅でバスに乗り換え、更に地下鉄を乗り継いでホテルに向かうことにする。

 

地下鉄に乗ると、ほぼみんなマスクをしており、バスも同様。感染防止の意識は結構あるのだなというのが最初の印象。あとから聞けば、駅構内のポスターにある通り原則着用義務があるとのこと。またバス停近くの地面にはディスタンスを取らせるためのフットプリントが貼られていたりもするが、前後ではなく、左右となっているから、みんな横向きに並ぶのかなと思ったり。

 

               

 

               

 

                   

 

 

一方、信号待ちなどかなりの人混みになる場所であっても、屋外でマスクをしている人はまずいない。日本では、夜道を一人で歩く時でもマスクをしていたり、一人でクルマを運転している時もマスクを外すのが面倒なのか、マスクしたままというのをよく見かけるが、屋外でのマスク着用に関して、日本とは大きく状況が異なる。

 

面倒な地下鉄の乗り換えを経て、Southe Kensingtonにある定宿のThe Ampersand Hotelに到着。10回ほど泊まっているこの小さなブティックホテル、レセプションの方は、いつも通りの温かい応対。長旅、そして久しぶりの宿泊ということを把握しており、Welcome backの一言とともに、予約していたスーペリアシングルルームをデラックスダブルルームにアップグレードしてくれる。

 

中に入るとロンドンにしてはゆったりした部屋、ベッドサイドのテーブルには、手書きのメッセージカードと箱に入ったチョコレート。当たり前のサービスではあるが、こんなご時世のひとり旅においては、こんな気遣いが心に沁みる。バスルームをチェックすると、バスタブ付き。ヨーロッパのホテルは、シャワーのみの部屋が多いので、寒い冬にバスタブ付きは嬉しい限り。更にデラックスダブルだからか、洗面台は2つ。これも部屋で洗濯をする際、漬け置き洗いが出来るのでマル。

 

そして、シャワーを浴び、到着早々Incognitoのliveに臨むべく、駅構内でテイクアウェイしたケバブサンドとチップスで夕食を済ませ、Ronnie Scott’s Jazz Clubへと向かう。

 

本来であれば、ホテル最寄りのSouth Kensingtonから地下鉄Piccadilly Line一本で、Ronnie Scott's Jazz Club最寄りのLeicester Square駅まで行けるのだが、春までは、この地下鉄がSouth Kensigtonに止まらないということで、地下鉄を乗り継ぎ、もうひとつの最寄駅であるTottenham Court Roadから現地に向かうことに。

 

Ronnie Scott’s Jazz Clubは、ロンドン最大の繁華街SOHOに位置するが、土曜日の夜ということで人出も多く、オミクロンも飛び交っていそうな雰囲気。夜の時間帯に入っていることもあり、地下鉄内のマスクの着用率は大きく低下、6割程度に止まり、年齢が若くなるに従い着用率は更に下がる。この時間になると、地下鉄内もグループやカップルなど、マスクなしで大声で会話する人々もいる。ここで感染でもすれば、色々と面倒なことになるわけで、このご時世にliveで感染となれば、プライベートな休暇中とはいえ、会社に対して申し開き出来るかどうかもわからず。気を引き締めなければならない。

 

オミクロン株がピークアウトの傾向を示す中の土曜日の夜ということもあってか、SOHO地区はかなりの人出。途中のお店はその多くが超満員。肌寒い中外飲みしているグループも多数いるが、当然だれもマスクなどせず声高に喋っている。喋っている人が少ない地下鉄では、ある程度ルールに従ってマスクをする人々も、感染リスクの高い空間でお喋りする際には、全く気にしていない点に、まず日本との差を感じる。

 

そしてRonnie Scott’sの前に着くと、ずらりと並ぶ入場待ちの列にディスタンスは一切なく、その先頭には英国No.1ファンといわれる友人とその友人、ドイツから来ている友人の女性がいて、2年ぶりの再会。当然誰もマスクはしていないし、ハグや握手も普通にする。旧知の間柄ということで、ちゃっかり先頭で共に開場を待つ間、入口付近ということで、Incognitoのバンドメンバーも出入りする中、感動や驚きの再会が叶う。そして、一部のメンバーやリーダーのBlueyは、そのような時も常にマスクを着用している。当然、彼らは公演期間中に感染するわけには行かないから、注意しているのかなと思いつつも、個人差がかなりあると感じる。

 

程なくして入口のドアが開くが、名門ジャズクラブは当然のようにメンバーを優先して入場させ、次いで我々が入場することになる。入口には消毒用のジェルが入ったポンプが置かれ、マスクも自由に取ることが出来るよう置かれている。消毒液については日本と同様、そこ此処に置かれており、特に地下鉄の駅などには、かなり堅牢な造りのものが、数多く設置されているから、駅に関していえば、日本より消毒しやすい環境である。

 

入場の列が進むごとに、ほぼ全員がポンプ式の容器に入ったジェルで手指消毒を行うが、場内でマスクを着用している人は皆無、従業員もごく一部を除き、マスクは着用してない。このため、逆にこちらはマスクを外せずという状況。土曜日の夜ということで、僕のようなひとり客はほとんどいない。liveが始まる前の時間は、そこ此処で互いに再会を喜び合い、談笑する人々が多数いて、コロナ禍の真っ只中であることを感じさせない。

 

僕が座った、ひな壇状の一般席には、とても低いアクリル板が横一列に設置されているが、飛沫拡散を防ぐための効果はほぼなさそうで、特段席を間引いて間隔を開けるといったことも行われていない。そして開演、演奏が始ると、曲と曲の間は拍手のみならず、2年ぶりのliveを喜ぶ大きな歓声もそこ此処から聞こえてくる。

 

                 

 

ジョンソン首相がワクチンのブースター接種を加速したこともあり、すでに国民の65%近くが3度目の接種を完了しており、liveの聴衆の多くは40代から60代であるため、ブースター接種率は更に高いと思われる。話を聞いても、ブースター接種が、英国の社会経済活動を動かす原動力になっていることは間違いないだろう。その点に関してし、日本におけるブースター接種の大幅な遅れは大きな失政と言わざるを得ず、新型コロナに打ち克つと言って、鳴り物入りで登場した首相に対しては失望しきり。

 

2年ぶりのliveは素晴らしく、やはりワールドクラスのミュージシャンによるギグは、日本のトップクラスのステージ比べても、明らかに格上。久しぶりにメンバーとの再会もあり、みんな僕の来場を信じられないといった様子。ステージからも日本から来たとして紹介され、周囲の拍手を浴びることとなる。

 

                 

 

終盤には、ステージから促されたこともあり、多くの人たちが、スタンディング、ダンシング、そして合唱。コロナ以前のliveと何ら変わらない状況。このため、こちらは終始マスクを外すことは出来ず、飲み物は、曲と曲の間ではなく、周りが静かになる演奏中に飲むことに。終演後、やはりメンバーの一部はすぐにマスク着用していたが、盛り上がった人たちはもちろんのこと、SOHO地区全体でも、マスクを着用している人は限りなくゼロ。クラスターが発生してもおかしくない。

 

聞けば、「誰々は二度目の感染で調子がすぐれないらしい・・・」と言った話は普通に出てくるが、みな重症化を全く怖れていないこともあって、友人が運悪くインフルエンザに感染したくらいの感覚で、みんな受け止め、お喋りしている様子。感染による待機期間もすでに5日間となっており、コロナに対する国民の感覚、意識が、日本とはあまりに違うことにとても驚くと同時に、日本人が味わっていない地獄を経験、乗り越えて来た強さのようなものも感じる。

 

世界中で感染者は増えたり、減ったりを繰り返しているわけだが、どの国においても、人々は日々の生活を続けており、それなりに人生を楽しもうとしている。日本より感染者数が多い国を、外から見て怖いと思う気持ちもわからなくはないが、そこで普通に暮らす人たちはいるわけで、バイオハザードではあるまいし、立ち入るべきではない、鎖国してそこから人を来させないと安易に考えるのも、おかしいのではと思ったり。オミクロンの症状レベルであれば、腹を括るしかないと皆が思っており、あとは個人個人が自らの判断で感染予防のレベルを決める。それで英国の社会が回っていることを実感する数時間となった。

 

帰りの地下鉄では、更にマスクの着用率は3割程度まで低下、特に多くの若者は、大きな声で会話したり、笑ったりしていたが、すでに自分の中にあるコロナ感が、変わりつつあることを感じ始める。

 

以上  第三章 「ロンドンの夜」

 

次章につづく