準備万端で迎えた出発の朝、ロンドン滞在中のみならず、隔離ホテルでの生活を考えた持ち物をパッキングした白いRIMOWAのスーツケース。一昨年までは、こいつと共に色々と世界を旅したが、今回使うのは、20202月にミラノから帰国して以来だから、十分に力は蓄えているはず。

 

129日の朝7時となり、普通に「いってきま〜す」と告げ家を出る。そして白い相棒をゴロゴロと引っ張って駅に向かう。羽田空港行きのバスに乗るため、二子玉川駅で下車。海外出張時のルーティン、マクドナルドで温かいコーヒーをクーポン割引で購入、それを持って、昔のバス停より遠くなった楽天クリムゾンハウスの車寄せにあるバス停へ。すでにバスは停まっており、あとはドアが開くのを待つばかり。バス停には明らかにCAと思われる女性がひとり。荷物が少ないので国内線で乗務の模様。

 

バスは二人だけを乗せ、通常の国道246号線、環八経由で首都高へ。渋滞もなく、スムーズに羽田空港に到着。同乗のCAは第二ターミナルで下車、ということは、全日空、エアドゥ、ソラシドエアのいずれかに乗務するのだな、などと朧げに考えつつ、下車する際に運転手さんにお礼を言って、第三ターミナルで下車。

 

キャッシュレス時代だが、やはり日本人なのか、多少は現金がないと心配なので、いつもの通りのルーティン、到着ロビーにあるみずほ銀行の両替所で約1万円をポンドと両替。WiFiルーターのレンタルを済ませて、出発ロビーへと向かう。チェックインカウンター辺りは、予想通り人が少なく、照明も明るさがないように見える。そして何よりその場の空気感が、以前とは大きく異なっている。

 

当然のことだが、旅行者らしき雰囲気の人を見かけることはなく、もちろんグループで動く人は皆無。多くは1人客かご夫婦、3人以上となると、子ども連れのママさんが、ほんの少しいる程度なので、出発ロビーは妙に静か。戒厳令でも敷かれているような空気の中、不要不急の場合に来てはならない場所という感じが強く、物凄い勢いで気持ちが下がっていく。

 

チェックインカウンターは、もちろんがら空き、地上係員の方が2人がかりで、ロンドン入国に必要とされるワクチン接種証明に記載された各項目、英国入国に必要なQRコードの付いたPassenger Locator Formなどを入念にチェック。気軽に海外に行って来ます感はゼロ。まさに有事の渡航といった雰囲気である。

 

そもそも、世界的に感染拡大中の最中であるため、程度の差はあれども、どこの国も水際対策は行っているわけだが、英国の場合、日本はレッドリストの国ではないので、隔離はなく、簡易な抗原検査を受けるのみ。渡航に先立って、到着翌日までに受けることが義務づけられている抗原検査の予約を取った上で、事前に作成するPassenger Locator Formに登録して予めQRコードを取得する必要がある。その登録作業において、検査予約のリファレンス番号を入力することになっており、予約が取れていないとエラーとなり、フォームの作成は出来ず、QRコードが取得出来ない仕組み。

 

              

 

更に帰国するために、厚生労働省、検疫所のルールに従い、ロンドンからの帰国便の搭乗時刻の72時間前以降にPCR検査を受け、陰性であれば、その陰性証明をもって帰国可となるので、少なくともロンドンでは2回検査を受けることとなる。

 

前章でも触れたように、帰国の際には羽田空港での検査を経て、6日間の施設隔離、プラス4日間の自主隔離、都合帰国後に10日間身動きが取れない状況となるわけだから、自分の行動がいかに酔狂なことであるかということ。そんな短期間、仕事でもない旅行のために日本を出るような人間は、おそらく今この出発ロビーの中にはいないだろうなと思いつつ、無事チェックインを済ませる。時間帯によっては、長い列に並ぶこともある手荷物検査場は、当然ながらがら空き。

 

そこに入るための搭乗券を読み込むゲートにおいても、係の方はけして近寄って来ず、表示を見てお進みくださいと離れた場所から告げるのみ。手荷物検査台の所まで来ると、かなりの数の検査員が待機しているが、金属探知機のゲートはなく、テラヘルツ波を使った異物検査機により、身体を透視するかのように異物を確認する装置に全て置き換わっている。

 

乗客が極めて少ないこの時期、さすがにテロリストは飛行機には乗らないだろうと思うが、手荷物検査場にも独特の緊張感が充満しており、検査はとても厳しく、この時期に旅行などしては行けなかったのだなという気持ちは更に強くなっていく。

 

手荷物検査を終えて、出国審査を機械で済ませれば、搭乗口と免税店が並ぶエリアに入ることとなるが、免税店の軒数は随分減っていて、規模も大幅に縮小されている。当たり前といえば当たり前だが、この先、急に旅行解禁となったら、大混雑してしまうことだろう。

 

 

いつも通り、旅先のホテルで飲むための500mlPETボトル入りシーバスリーガルを購入しようと免税店に入ると、サントリー「響」が一万円とお買い得。でも荷物になるので諦め、シーバスリーガルのみを購入して、全日空のラウンジへと進む。通常使っているANAラウンジは閉鎖中、ファーストクラスや上級会員向けのANA SUITE LOUNGEのみオーブンしており、そこを利用することになる。

 

朝からカレーとビールといういつものパターンで行こうと思っていた所、まん延防止措置適用期間ということで、11:0020:00のみ酒類提供という、よくわからない対応となっていたため、仕方なくカレーと炭酸水で我慢する。お客がまばらなラウンジには、防護服的なツナギに防護メガネとマスクを装着したスタッフが、必要以上に大勢待機しており、食器の片付けなどを行うなど、独特の厳戒感が漂う。この人数配置は、もしかして雇用対策?と思いつつ、食事のコーナーを回ってみる。

 

            

 

温かい料理は、調理場のカウンターから個別に注文するスタイル。オードブルなどの冷菜は、しっかりラップがけしてある。更に余分には出さず、都度都度減った分だけを補充している。これは、もしかすると、日頃のSUITE LOUNGEと同じなのかもしれない。その後に何便か出発すると、ラウンジ内には数名残るのみ。やはり旅に出るべき時ではなかったかなと、ワクワクする旅行気分を感じないまま、引き続きソファーに腰掛けて時間を潰す。

 

搭乗開始時刻に合わせて、少し早めに移動すると、搭乗口近くで待つ人はざっと数えて25人ほど。予想していたよりも少ない。

             

 

搭乗券に記載されたグループごとに搭乗が始まり、機内に入ると、10名ほどがビジネスクラスの座席に座り、僕と同じ残りの15名がエコノミークラスに座るという感じで機内はスカスカ、当然前後左右には誰もいない。エコノミークラス担当として、CA4名ほどいるので、サービスはある意味鬱陶しいほど手厚く、当たり前だが、トイレも待つことはけしてなく、いつでもすんなり使うことが出来る。

 

日頃は、絶対に通路側の席にしか座らないが、今回は空いていることもあり、追加料金を払い、窓側座席。少し乗らないうちに、後方座席を除き、窓側と通路側の席に座っるには追加料金が必要。ということもあってか、僕が座った席の付近に他の乗客は誰もおらず。窓側席ということで、雲海も眺められるが、エンジンから白煙が出てると驚きつつ、水蒸気かもなと眺めたりする優雅なフライト。ようやく旅行気分が盛り上がり、映画を何本か見てウトウトしていると、12時間はあっという間。無事ロンドンヒースロー空港に着陸。

 

              

 

どんな関門が待ち受けているのかと、パスポートとともに、接種証明書やQRコードが付いたPassenger Locator Formをいつでも見せられるようにと手に持つ。入国審査場では、中東系の入国者などが列をなしていたが、3年前位から日本人は自動化ゲート利用可なので、スイスイ入国。そのままの流れで進めば、いつもの通り預けた荷物が出てくるのを待つわけだが、書類のチェックなどがあるのかと思い構える。

 

ところが、書類の確認は一切なし。乗客が少ないせいもあり、回転台の上では、すでに自分のスーツケースが回っていたので、それをピックアップ、税関職員のいる所を素通りして到着口を出れば,あっさり到着ロビーに到着。ヒースロー空港では、何のチェックもなく拍子抜け。到着2日目までに義務づけられている検査を予約しているものの、水際対策はないに等しい感じに、この国の現状を感じ始める。

 

それでも空港内では、ほとんどの人がマスク着用。後から聞けば、今は公共交通機関においてはマスク着用義務があるとのこと。そして、予め予約していた抗原検査を受けるため、空港内のテストセンターへと向かう。そこで予約のQRコードとパスポートを提示、検査ブースへと案内される。

 

係員は男性、日本に来たことがあるといった話をしつつ検査開始。ラテラルフローという簡易抗体検査で、両方の鼻腔に綿棒を差し入れ、更に喉の粘膜をなぞって、検査液に浸した後、検査キットにその液体を数滴垂らす。抗体検査とは違い、結果が出るまで40分ほどかかると言われ、ここで待つのかと聞くと、メールで知らせるからと返される。この間約10分。

 

すべてがあっさりしており、物々しさはまったく感じられない。羽田空港の緊張し切った空気との大きなギャップを感じつつ、久しぶりの海外ゆえ、緊張を保ちながらホテルへと向かう。

 

結局、頑張って取ったPassenger Locator FormQRコードや接種証明書はその後も使うことはなかった。

 

以上、第二章 緊張(日本出国からロンドン到着まで)

 

次章につづく