岩波ホールで「ニューヨーク公共図書館」という映画を7月5日まで上映しています。ニューヨーク観光に行った方なら通りかかったことが多いと思いますが、五番街42丁目の目抜き通りの角に位置する白亜の建物で、35年前私は職場から派遣され研修生としてお世話になったことがあるのです。映画はこれから日本を巡回するらしいですが、東京では見た方も多いでしょう。

 実はこの映画は2年ほど前に山形市の国際ドキュメンタリー映画祭で上映されています。その時、たまたまこの映画を観た映画音痴の私は、現代ドキュメンタリーフィルムの手法(「ダイレクト・シネマ」と呼ばれるらしいです。)について無知蒙昧であり、上映時間3時間半ということもあり何と退屈な映画かと思ってしまいました。

 

 その後東京で上映されることになり、たまたま事前に見せてもらう機会があったのですが、いろいろ考えたり調べたりして初めてこの映画の真価がわかったような気がします。図書館関係者ですと、外国の映画で図書館が出てくるというと、何かしら仕事に役立つとか、最先端の技術やサービスが出ていないかと思って見てしまうのですが、私は、ワイズマン監督が伝えたかったのは、奴隷制度、南北戦争、黒人公民権運動、移民政策など、アメリカが血を流しながら守ってきた「民主主義」や「自由主義」「平等主義」「ヒューマニズム」みたいなもの、アメリカ建国以来の理想(コア・バリュー)を、図書館に体現させたかったのではないかと思うのです。

ですからこの映画では、図書館の建物、図書館の歴史、所蔵資料などでなく、図書館員の日々の活動が記録(演技でなく)されています。マークス館長がいい味出してますね。

いくつか35年前のニューヨーク公共図書館の写真を貼付します。➀ちょうど日曜日で図書館の大階段前で楽隊が演奏しています。②源氏物語絵巻の展示をしたりしていて「日本の美」という垂れ幕が下がったりしています。③は図書館裏のブライアントパークで当時は麻薬の売人がうろついていました。銃弾が図書館書庫まで飛んできたことがあるそうです。今は映画にあるような綺麗なオープンカフェとなり、地下は図書館の閉架書庫になっているとのことです。(※正面は、大阪の中之島図書館にそっくりですね。)

 

 

④は当時のグレゴリアン館長、スタム副館長と夫人と息子さん、⑤はお世話になったオリエンタル部。日本人、中国人、韓国人、イラン人、イラク人、インド人図書館員がいました。部長はスウェーデン人の研究者でした。⑥は資料保存部。器用と思われたのかなぜかイタリア系の図書館員が多かったです。

 オリエンタル部は現在無くなって一般研究部に吸収されてしまったようですが、資料保存部はAVやデジタル資料の保存までてがけて拡充されているようです。映画の中にもありましたが、予算によって部や課が無くなったり新しくなったりするんですね。

 映画を観られたら小冊子が付いていますので、よく読んでおくといろいろな背景がわかります。