夏休みで海外に出発する直前に書いているので、ちょっと慌ただしい。

晶文社から来春刊行される「吉本隆明全集」の長い推薦文を書いて、
時間が少し余ったので、ブログを更新しようと考えた。

まず、2週間前に観た三谷幸喜原作・脚本・監督の「清須会議」の初号試写にぶっ飛んだ。
本格的な時代劇で、カメラアングルも役者もストーリーも台詞も、まさに「ジス・イズ・ザ・映画」になっていた。

あれだけの原作をどうやって映画にするのかと、逆に心配までしていたが、
緻密な計算と怒涛の剛腕で軽々とそのハードルを越えて来た。

重量級の役者たちのそれぞれの演技が、
神の恩寵とも言うべき領域にまで到達していて、
何度も笑い、何度も唸った。

登場人物全員が素晴らしいが、
特に凄いのは柴田勝家役の役所広司。
いつもとんでもなく巧いが、この映画でその巧さは極まっている。
今年の僕の主演男優賞は、今のところ役所広司で決まり。

次いで羽柴秀吉を大真面目な軽妙さで演じた、大泉洋。
男の色気が匂い立つ。
役所広司の主演男優賞の最大のライバルになるだろう。

池田恒興に扮した佐藤浩市は、
よくぞここまでという繊細さで人間の業を演じきっている。
元々、大好きな役者だけど、益々大好きになった。
こんな佐藤浩市、観たことない。
男の色気、本家本元の真骨頂。

秀吉の妻・寧を演じた中谷美紀は、狂気を内側に秘めた大熱演。
こちらの身体も中谷美紀の踊りに合わせて、自然に動いてしまう。

丹羽長秀の小日向文世は、自分の役割をよーくわかっている頭脳プレイの白眉。
周りの役者の個性を演技以上に彫り上げたのは、この人の存在が大きい。
どちらに付くか葛藤の末、決断するシーンは胸に迫る。

でんでんの怪演も、脇でありながらこの映画を締める。

意外に良かったのは、松姫の剛力彩芽。
ピュアなしたたかさが全身から滲み出る。

鈴木京香も浅野忠信も妻夫木聡も篠井英介も、
とにかく全員がこの映画の役になり切っている。
と言うか、監督の「清須会議」にかけた想いを、完璧に理解している。
三谷組の熱い結束を思い知らされる。

下衆な面白さはひとつもないが、
とにかく面白くて、面白くて2時間18分があっという間だった。

それでいて史実通りだというのが、また凄い。

西田敏行と天海祐希のインパクトのあるアクセントに舌を巻き、膝を打った。
特に天海祐希は、たったあれだけのシーンでおいしいところを全部持って行った感がある。

網の目のように複雑に張り巡らされた人間模様を
ここまでダイナミックに躍動させた三谷幸喜は、まさに天才の面目躍如だ。

原作にあったイノシシを映画でも観てみたかったけれど…。

11月9日(土)の公開が待ち遠しい。
原作の幻冬舎文庫を、
読んでから観るか、観てから読むか。
映画を観る幸福とはこのことだ。

雨宮塔子の新刊本『パリのmatureな女たち』(幻冬舎・刊)のことを書こうと思ったが、
出発の時間が来てしまった。

この人は、書ける。
余韻の残し方も人物描写も見事で、今後が楽しみだ。

前回書いた、自民党公認で参院選に出馬した伊藤ようすけ氏は、残念ながら落選してしまった。
本人は「もう一回、頑張る」と言っているので、ずっと応援しようと思う。

皆さんもいい夏休みを!