土曜日の夜、三谷幸喜作・演出の「ホロヴィッツとの対話」をパルコ劇場で観劇しました。
傑作の「コンフィダント・絆」「国民の映画」に続く、海外芸術家シリーズなのですが、これが、凄かった。

一夜のディナーのテーブルに盛り付けられた人生の深淵が、知的で高級な笑いのスパイスと交錯して、絶品の味を堪能させてくれました。

渡辺謙・和久井映見夫婦VS.段田安則・高泉淳子夫婦の攻防と、夫と妻の応酬が、計算し尽くされたシチュエーションと台詞で展開され、130分があっという間に過ぎて行きました。

三谷幸喜は天才ですね。天才としか言いようがない。

人間の善意と悪意、理性と感情、真実と嘘、プライドと意地、尊敬と軽蔑、信念と諦念、非凡と平凡、希望と絶望、芸術と日常といった様々な対極が、毛細血管のように複雑に絡み合って、小さな舞台が生き物のように動き始めて、観る者の胸に迫ってきます。

笑いの渦に引き込まれながら、知らず知らずのうちに、人が生まれて、生きて、死ぬ、という誰もが逃れられない小さな人間の壮大な運命に、想いを馳せることになります。

針の穴に糸を通すように行き交う台詞は、普通の会話の言葉でありながら、圧巻としか言いようがなく、これをやり切った4人の役者にブラボーとスタンディングオべーションをしたくなりました。
一ミリや一秒でも間違えると、計算し尽くされた4人の関係性は台無しになってしまうので、役者達の緊張感はとんでもないものがあったと思います。その緊張感を観客に感じさせずに、役の人物に成りきるのは、至難の業だったはずです。

高泉淳子と段田安則の芝居はよく観ていて、今回も期待に違わなかったのですが、映画スターの渡辺謙と初舞台の和久井映見の演技にも舌を巻きました。
ピアニストの女性にも拍手を。

観劇後の爽快感といい、芝居を観る幸福とは、このようなものだと、しみじみ実感した夜でした。
遅い夕食は、一緒に観た小山薫堂と鉄板懐石「寺」で。
芝居の余韻を引きずって、ただでさえ美味の料理とワインが旨かったこと。

これだけのクオリティで、芝居、映画、テレビドラマ、小説を量産する三谷幸喜の頭の中をファイバースコープで見てみたい。

またまた三谷幸喜の傑作の誕生です。