自伝連作小説『少年時代(12)』 | 物語作家 小説家 森田 享

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クリスマスで、二学期終業の日という解放感もあったのだろうか、それに、なんと言っても早熟な成田美穂は『ませて』いたからだろう、彼女は陽気に、そして何気なく私に、

「森田くん、お正月に年賀状を出したいから、住所を教えて」

と、まるで姉が弟にでも話すかのように言った。まったく落ち着いていて、テレビで見る年上の女のようだった。少年の私は、と言うと平気な顔を見せながらも内心、動揺していて、彼女の可愛くて大人びた笑顔に圧倒されていた。

小学生低学年の頃なら、女子と年賀状を送り合ったことはあったかも知れないが、小学六年生の私は、初めて恋の対象である女子と年賀状の約束をすることになって、一気に有頂天となっていた。六年生の学級内で、他の女子と男子が年賀状を送り合おうと話しているのを、見たことが無かったので、成田美穂が大胆にも、他の生徒たちに聞こえるような声で私に、そんな話しをしていることが余計に嬉しくて、私を興奮させた。

いや、もう、他の生徒が見ているとか、成田美穂と私の話しに聞き耳を立てているとか、そんなことはどうでもよく、ただ成田美穂と自分が年賀状の約束を交わしていることだけが、私を夢中にさせた。彼女は、その正月、他の男子とは年賀状の約束を交わしているようには見えなかった。私だけなのは間違いないと思った。その時期に彼女と席が隣同士であった幸運を、私は本当に、神のような何者かに感謝していた。

私は、ペンを持つ手の震えを必死に腕力で抑えながら、成田美穂の差し出したメモ帳に、下手な字で自分の住所を焦りながら、やっとの思いで書いた。字が躍らないようにするのに苦労した。そして、成田美穂が書いた彼女の住所のメモを受け取って私は、できるだけそっけなく、

「じゃあ、ぼくも年賀状だすから」

と言った。彼女は、いつものように、その『やり取り』を楽しむように、悪戯っぽく私の背中を軽く叩いて、

「ちゃんと元旦に届くように出してよ。森田くん、絵が上手いんだから、年賀状に、なんか絵も描いてね」

と微笑した。

「年賀ハガキの小さいところに絵なんか描くの面倒くさいな」

「せっかく森田くんが年賀状をくれるんだから、なんか絵も描いて」

「わかったよ。うるせえな」

そのとき、成田美穂に対して見せる表情とは裏腹に、私の心は、どれほど歓喜していたことか。

 

二学期の終業式が終わって、家に帰ってから、私は一枚の年賀状を画用紙に見立てて、少年の拙い画力のすべてを注ぎこみ、色鉛筆で一生懸命に、その年の干支や成田美穂の似顔絵を描いた。そして、成田美穂を想いながら、彼女に捧げるような気持ちで、ごく短い文章も、何度も何度も練り直してから、そこに書き添えた。

私は、元日に成田美穂の家の郵便受けに直接、年賀状を投函しに行こうかとも考えたが、さすがに、それは止めた。しかし、年賀状を郵便局に出した後も、私の年賀状が成田美穂の手元に、ちゃんと元旦のその朝に着くだろうか、と常に心配し続けていた。

さらに、私の年賀状を手元に取って見たとき、成田美穂は、どう思うか、何を感じてくれるだろうかと、冬休みの間中、ずっと想像し続けていた。いつも学校では周りに他の男子や女子がいるから恥ずかしくて、とても表現できないこと、自分が成田美穂を好きだという秘密に、あの年賀状で成田美穂は遂に気づいてくれるだろうか、と思い悩んだ。

いや、むしろ、自分の年賀状どうこうよりも、

――成田美穂は本当に、私に年賀状を送ってくれるのだろうか?

と、元旦の朝になるまで、ほとんどいつも、そのことが私の頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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