最近よく聞きます。自分の意志ではコントロールできない「配属ガチャ」

 

昔はこの認識すらなかったです。諸先輩方は「与えられた仕事は全うして

 

当たり前、それを不満などいうヤツは仕事をする資格なし!」そんな時代でした。

 

そんな配属ガチャにまつわる経験談を三つ紹介したいと思います。

 

【一つ目の話】

  僕が20歳くらいの時の事です。その頃の就職は売り手市場でした。

 

  毎日新聞に募集欄が掲載されており(しかも正社員)今と随分違います。

 

  当時の僕は高校を卒業して仕事にも慣れつつあった頃、先輩の言葉に

 

  触発されて転職を考えていました。当時の仕事に不満があるわけでもないのに

 

  一生このままの仕事しか知らないのはイヤだと、強く思っていました。

 

  特に希望していたのが「今とは別の世界」を経験してみたい、です。

 

  そんな時、ある電子メーカーの募集がありました。誰もが知っている

 

  大企業です。

 

  僕は「何をやりたい」という明確な目標もないままに面接に行きました。

 

  面接官は30代後半の落ち着いた感じの男性でした。

 

  履歴書を確認したあと少し雑談的な話もあり、一区切りしたところで

 

  面接官は自分自身の話を静かに語り始めました。

 

  「僕は今、人事部ですがこの職種に就いて約5年です。」と切り出すと、

 

  大学を卒業してから技術の優れた世界にも通用するメーカーに勤めたいと

 

  考えこの会社に応募し入社したとのこと。

 

  しかし、入社後の研修期間が終わると配属されたのは技術部だったそうです。

 

  彼にしてみればまさに「青天の霹靂」ほどのショックで、どうして文系の

 

  自分が技術部なんだと、さすがに時代とはいえ、上司に掛け合ったそうです。

 

  しかし上司は会社の決定事項だし君ならできると根拠も示さず押し切られた

 

  そうです。

 

  彼は落胆と共に「畑違いの技術部なんて勤まるはずがない。」と不満も

 

  マックスに達していたそうです。ただ一つ、大学を出してくれた両親が

 

  やっと希望の会社に入社し喜んでくれたことが頭にあり、すぐに辞めるという

 

  選択はできませんでした。

 

  そして出た答えは「この先本当にダメだと思ったら会社を辞めよう。」

 

  と決意したそうです。そしてそれは一日終わった時点で考え続けました。

 

  つまり、一日が終わって「明日も頑張れそうだ。」と思えばもう一日

 

  やってみようと、そして次の日も、またその次の日も・・・

 

  そんな日々を重ねているうちに、なんとか一年が経過しました。

 

  そのころには毎日分からないことだらけでストレスを抱え、今なら「うつ病」

 

  になりかねない状況から少し脱出できた自分を感じられたそうです。

 

  そしてその当時ひそかに「どうせなら技術で一人前になって辞めてやろう。」

 

  と考えがいつも頭の中にあったそうです。

 

  それからも毎日「喰らい付く」の言葉通り、周りの先輩や同僚、後輩に

 

  負けないようにと必死で業務をこなしていたようです。そのための

 

  休日も勉強を怠らなかったようです。

 

  そんな日々が3年ほど経過した頃、初めて小さなプロジェクトを

 

  任されました。そのこと自体より文系の自分が技術のリーダーに

 

  選任されるなんて夢にも描いていませんでした。初めて自分が一人前の

 

  扉の前に立てたような気持になったそうです。

 

  そしてそれからやっと、少しずつですが技術の仕事の面白さや社会に貢献

 

  する仕組み、そしてなによりやりがいを意識できるようになったとのことです。

 

  技術部での日々も10年が過ぎるころにはすっかり「技術の人」に

 

  なっていたし、仕事が楽しく感じられる毎日を過ごしていました。

 

  そんなある日、上司と人事部長が同席する部屋へ呼ばれたのです。

 

  何の用?全く理解できずにいると・・・

 

  人事部長から「君は来月から人事部に移動することになった。」と

 

  告げられました。

 

  またしても、というか配属の時に感じた「晴天の霹靂」以上の驚きです。

 

  同時に「なんて勝手な会社なんだ」と怒りの感情も湧いてきました。

 

  そんな彼に人事部長は静かに語り掛けます。

 

  「君は将来我社の人事部のトップになってもらいたい人材なんだ。

 

  技術で世界をリードする会社である限り技術が一番大切なことは

 

  君も理解出るな。次世代を託せる技術者を採用する立場の人間は

 

  技術の目を持っていなくてはいけない。そして技術の大変さや、

 

  楽しさ、素晴らしさ、苦しさ、そんな実務経験をした人間こそが

 

  相応しいと思っているんだよ。同時に会社の中では本人が希望と違う

 

  職種に就く場合も十分考えられる。そんな状況でも会社のために

 

  邁進してくれる人が適任なんだ。この10年間よく頑張ったな。」

 

  いろんな感情が溢れだし、気持ちの整理がつかなかったそうです。

 

  それならそうと、前もって10年だよと言ってくれたら・・・とも

 

  頭をよぎりましたが、

 

  そうなっていたなら今の自分はないし、なにより本気で技術の仕事に

 

  打ち込めたとは到底思えません。そんな会社に振り回された

 

  10年だったかなと思いつつも心底「素晴らしい会社に入ったんだ!」と

 

  胸を張って言えるようになったという話をされました。

 

  今で言うところのまさに「配属ガチャ」ですね。希望の職種に就けず社員の

 

  モチベーションは下がりパフォーマンスにも影響を与えかねない状況です。

 

  そんな経験をした彼は20歳そこそこの僕の浅はかな考えをすぐに見抜いて

 

  「もう少し時間をかけて考えてからの方が・・・」と諭す意味でこの話を

 

  したのだと、随分後になって理解出来ました。

 

  残念ながら当時の僕はそんな彼の意向をくみ取る能力力もなく、面接は

 

  終了しました。

 

【二つ目の話】

  僕が20代後半の頃です。前述の面接では転職に至らなかったのですが、

 

  その後、技術者としての力というか、幅を持ちたいと会社を退職して

 

  夜間の大学に入学し無事に卒業することが出来ました。

 

  次に勤めた会社もそこそこの会社(一流でないけど大きな企業)に

 

  就職しました。

 

  当時の僕は学校も出たことだし、やはり工業系の技術職に就きたいと面接を

 

  受け、合格しました。(バブル直前で人材は誰でもOKの時代)

 

  ただし、配属先は技術ではなく品質部門でした。

 

  希望と違う職種でしたが、技術部や購買部、製造部など多くの部門に関わる

 

  仕事でコミュニケーション能力が求められるセクションでした。

 

  最初は教えてくれる人もいなくて失敗ばかり・・でも少しづつ信用して

 

  もらえる環境が構築されてきて、自分が認知される感覚を持つことが出来る

 

  ようになりました。

 

  そうなるまでには約5年間かかりました。 

 

  そしてここで習得した知識や人との繋がりでその後約30年間、転職は

 

  しましたがその職種で仕事が出来ました。

 

  配属先では技術にこだわり過ぎずに「とりあえずやってみよう」と思えたのが

 

  結果として自分にプラスになったのではと思っています。

 

【三つ目の話】

  これは新入社員の話です。

 

  会社に高校卒業して入社した文系の男性がいました。

 

  彼は商業高校出身で希望職種は「総務部」か「経理部」です。

 

  入社式やその後の研修期間が過ぎた後に社内初任者研修として

 

  3か月間の製造部門実習が課せられます。

 

  これはどんな職種の人でも必ずやることになっています。

 

  会社がどんな仕事、製品を世に送り出し利益を得て社会貢献しているか、

 

  それはこれから過ごす社会生活の中で自分の会社の根幹を知るという

 

  意味でも実践が義務化されているのです。

 

  それを通達されて彼は、

 

  「現場実習はイヤです。絶対にやりません。僕は総務か経理希望で入社

 

  したのです。事前の説明も聞いていないので受け入れられません。」と

 

  あくまで拒否する態度を崩しませんでした。

 

  会社側としては「全員がやること」「会社を知る」「期間が3か月と決まって

 

  いる」と説得をしましたが彼は聞き入れることはなく双方合意の上で

 

  彼は退職の形となってしまったのです。

 

  世間一般的に現場実習があるのは常識と思っているのは会社の考えであり

 

  彼は一時的にせよ「配属ガチャ」を感じたのかも知れません。

 

  

  どの話も今の時代では考えられないことなのかもしれません。

 

  自身の希望を事細かにアピールして具体的な職種やその中でも何を

 

  やりたいかを企業側と学生(就職希望者)が十分話し合ったうえで

 

  時にはインターシップを活用し配属ガチャをしない、させないようにする。

 

  これは人材確保の意味もあるので、今の時代では必要なのかなとも思います。

 

 

  昔の形態や仕組みが全て良いとは思いません。

 

  ただ、最初に受けた企業の面接官や僕自身のように入社時に希望した

 

  職種でない仕事に就いたその後、不幸になったかと言えば・・・

 

  そうではなく、むしろ幸せになったと感じています。

 

  もちろん最初から希望職種に就いて充実した会社生活が出来ることが

 

  一番ベストには違いないのでしょうけど・・・