この「しりとり物語16」というテーマのBlogでは、2018年10月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~ひとかけの未来」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。

 

 

ひとかけの未来~第12話「水面(みなも)~元の木阿弥(もとのもくあみ)」

「どうです?」
「動作不良や破損もないですし、データも全て大丈夫かと思います。」
「良かったぁ!」

ケースだけ新しくなったスマートフォンが、俺の手に戻ってきた。

アポフが「水面(みなも)」というヒントを告げてきた時、俺は比喩、つまり何かの例えだと思い込んだ。レベル4ともなれば、大きな出来事に繋がる可能性があるのだろうと思いつつも、海や川に行く予定はなく、「水面」は何か別のことを指しているとしか考えられなかったのだ。

もしもそうならば、危険に曝されるようなこともないだろうと、俺は油断していた。

年の瀬も近づき、冷え込みも厳しくなってきた。俺は、体を芯から温めようと、浴槽にお湯を溜めていた。「何かを待つ」という隙間の時間には、どうしてもスマートフォンを手にしてしまう。

人差し指で画面をスクロールした時、スマートフォンの端に何か当たるものが感じられた。

「あ、カバー、割れてんじゃん。」

そのことに気づくが早いか、湯張りの完了を告げる給湯器のアナウンスが流れた。

俺はスマートフォンを持ったまま浴室へと向かい、歩きながらカバーを外そうとした。それが間違いだった。浴槽の前まで来た時に、ケースは勢いよく外れ、スマートフォンと共に浴槽へと飛び込んだ。

「あ~!!」

慌てて浴槽に手を入れ、スマートフォンをつかみ取る。タオル掛けからタオルを引き抜き、スマートフォンを包んだ。

「ああ…やっちゃったよ…大丈夫かなぁ…。」

浴槽に視線を落とす。

「こういうことか…。」

外れたスマートフォンケースがプカプカと浮かんでいる。

「水面(みなも)…ねぇ…。」

翌日、携帯ショップの開店と同時に、俺は水没したスマートフォンを持ち込んだ。幸い、故障はしていなかったようだ。調べてもらったお礼の気持ちも込めて、新しいケースを購入し、事なきを得た。

「あ、アポフ。」

スマートフォンの動作確認に気を取られ、アポフのチェックをすっかり忘れていた。アプリを立ち上げ、念のために設定画面を開く。レベルは4のままだ。どうする?試していないのは最高レベルの5だけだ。俺は少し考えたが、自分の性格上、いずれ試すだろうと思い、指を右へと滑らせた。

その状況を弄ぶかのように、アポフが告げてきた言葉は「元の木阿弥(もとのもくあみ)」だった。

(次週に続く…)

 

この週の採用ワード

水割り(みずわり)