この「しりとり物語13」というテーマのBlogでは、2018年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~しりとり伝言師」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。

 

 

しりとり伝言師~第13話・最終話「縁結び」

ひと文字渡して、言葉をもらい、もらった言葉で書を認(したた)める。
渡す色紙(しきし)と引き換えに、ひと文字預かり、次なる縁(えにし)へ。
我が名はしりとり伝言師。


その男性は爽やかでありながら、どこか寂しげでもいらっしゃいました。

「僕、冷たい人間なんでしょうか…。」
「何か気がかりはことがお有りでございましょうか?」

男性はリラックスとも、抜け殻とも取れる雰囲気で語り始められました。

「人との付き合いが続かないんです。僕以外の人たちはその後も交友が続いていって、時々『出会いのきっかけをありがとう!』なんて感謝までされるのに、僕はそこにいない。社交性がない訳じゃないけど、僕って本質的に冷たい人間なのかなぁ…と。」

どこか、自分自身とこの男性に重なるものが感じられます。

「お気持ち、お察し致します。先ほどお会いした方が『昨日のカレー』というお言葉を下さりました。わたくし、その最後のひと文字『え』をお預かりしております。あなた様には、頭に浮かぶ『え』で始まるお言葉を仰って頂きたく存じます。」
「『え』で始まる言葉ですね…え…え…『縁結び』。」
「かしこまりました。それでは参ります。認めっ!」

結び目を 作りて離れ 縁結び

「続いて、解釈っ!縁結びは、結び目が出来た瞬間に、ひとつの役割を全うする。その結び目が固まるか、大きくなるか、はたまた再度緩むか…それは2本の紐が決めること。懸け橋の存在は、次の紐が待つ場所へと旅立つのでございます。」
「僕にそんな役割が?」
「ええ、あなた様には、人と人との懸け橋となる才がお有りかと存じます。これは、誰しもに備わった適正ではございません。例えば、『縁結びのち恩着せ』では、懸け橋の才とは評しがたいものがございます。」
「確かに『出会わせてやった』みたいに思ったことはないですね。」
「先ほどあなた様は、感謝されることがお有りと仰いました。それぞまさしく、出会いを司る才の証。冷たき者に温かき関係は決して築き上げられません。」
「ありがとうございます。少しホッとしました。」

語るよりも早く、そのお心は男性の目に表れておりました。

「それでは、あなた様からのお言葉『縁結び』の最後のひと文字、『び』をお預かり致します。」
「伝言師さんも縁結びの懸け橋ですね。」
「恐縮でございます。わたくしもそのお言葉を胸に精進して参ります。」

男性の背中が消えるまで見送ると、わたくしはもう一枚、色紙を取り出しました。心の中で「認めっ!」と呟き、筆を運びます。

しりとりが 繋ぐ言葉の 縁結び

ご縁とは、誠に興味深きものでございます。わたくしにとりましては、しりとりの言葉こそが懸け橋。渡りを要する方と手を携え、一時でも道案内が出来れば、そこにわたくしの生きる意味がございます。

歩みを止める日でございますか?それは、頂いたお言葉が「ん」で終わった時でございましょう。


(おわり)
 

この週の採用ワード

ビブラート

 

 

この度も番組そして当Blogにて、しりとり物語にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

 

今回の物語は、完全一話完結型で13話まで書き切りました。

全く繋がりを持たせない一話完結型は、今までの13シリーズにありそうでなかったパターンです。

 

ちなみに番組での「しりとり伝言師」さんの語り口は、ライトな喪黒福造さんのような感じでした(笑)。

 

それぞれの登場人物に、それぞれの悩みがあり、お聴きの皆様・お読みの皆様によって、共感する回が異なったかと思います。

その中でも特に支持が強かったのは「第10話~履歴書」だったようです。

 

音楽(特に作詞)にも言えることですが、こういった物語を書いていると、様々な経験、こと苦難の類は創作の糧になっていると思えます。

これまでの44年において、「苦難はもう要らないよ…」と思うこともしばしばでしたが、経験が自分の中で消化され、作品に投影され、それが微力ながらもお受け取り下さった方のお役に立った時、苦難も浮かばれる想いです。

 

とはいえ、相変わらず「苦難はもう結構なのだが…」と思っておりますが…(笑)。

 

さて、「この週の採用ワード」の記載は、「しりとり物語」の継続を意味します。

自ら作り出した企画ではありますが、来週の木曜日には容赦なく新シリーズがスタートします(笑)。

 

さて、どんな物語にしようかな…と思案する身で申し上げるのも何ですが、新シリーズもお楽しみに!