この「しりとり物語13」というテーマのBlogでは、2018年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~しりとり伝言師」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。
 

 

しりとり伝言師~第12話「昨日のカレー」

ひと文字渡して、言葉をもらい、もらった言葉で書を認(したた)める。
渡す色紙(しきし)と引き換えに、ひと文字預かり、次なる縁(えにし)へ。
我が名はしりとり伝言師。


その男性は諦めにも似た憔悴を漂わせていらっしゃいました。

「自信がないんです…。」

まずはゆったりとお言葉をお返し致します。

「いかがなされましたか?」

男性はしばし俯(うつむ)いた後、ぽつりぽつりと語り始められました。

「仕事のことです。同年代と比べるとこれまで、それなりに結果も出してきたと思うんです。手前味噌にはなりますが、自分のことを優秀な人材だと思ったこともありました。」

男性は再び俯き、心を決めようしているご様子でございます。やがて、ゆっくりと顔を上げ、こう仰いました。

「私、もう時代遅れなんでしょうか?」

正直なところ、意外なお言葉でございました。と申しますのも、そのようにお感じになられるほどの年齢には、到底見受けられないのでございます。
男性はお言葉を続けられました。

「自分では、能力的に劣ることも、年齢に左右されることもなく、まだまだ通用するものを持っていると思える時もあるんです。でもね…それは私の主観であって、結局若い世代から見れば、時流を外れた自己満足なのかもしれない…と。」

人の心とは斯くも様々なものでございましょうか。

「お話下さったことに、心より感謝申し上げます。先ほどお会いした方が『予約席』というお言葉を下さりました。わたくし、その最後のひと文字『き』をお預かりしております。あなた様には、頭に浮かぶ『き』で始まるお言葉を仰って頂きたく存じます。」
「『き』で始まる言葉ですか…き…き…『昨日のカレー』。」
「かしこまりました。それでは参ります。認めっ!」

昨日のカレーが美味いのは 昨日と今日があればこそ

「続いて、解釈っ!」
「よろしくお願いします。」
「出来立てには出来立ての、寝かしたものには寝かしたものの魅力がございます。その適正は食べ物により異なり、組み合わせを誤ると、いずれも活かされないこととなってしまいます。人もまた然り。新しい感覚だからこそ見えるもの、出来ることもあれば、経験と時を重ねたからこそ見えるもの、出来ることもございます。いずれを否定するでも肯定するでもなく、場面や時に合わせた判断を心掛けることで、あなた様もお若い皆様も活きてくるのではと存じます。」

男性の表情に、幾ばくかの安堵が浮かんだようでございます。

「カレーも私も、腐ってはいけませんね。」
「食になぞらえて、うまいことを仰る。それでは、あなた様からのお言葉『昨日のカレー』の最後のひと文字、『え』をお預かり致します。」

「亀の甲より年の劫」と申しますが、年を重ねて尚、自らの価値を見いだし続けることも、時として容易ではございません。しかしながら、そこに悩みを抱えられるのもまた、年の劫が為せる業でございましょうか。

(次週に続く…)

 

この週の採用ワード

縁結び(えんむすび)