(前回の続き )
徳間(康快)はブランデーの小瓶を、いかがですか?と差し出し、私の紅茶に注ぐと、自分の紅茶にたっぷりブランデーを垂らしている。あまり紅茶が好きじゃない私はブランデーに誘われて口に運んだ。
この男は朝から紅茶にブランデーたっぷり入れて飲んでいるんじゃないのか。だから顔が赤いんだ。この顔色じゃそのうち血圧で倒れるんじゃないか。胸のうちで意地悪なことを考えていた。
やがて椅子から立った徳間は、壁際の出窓の小さなプレーヤーにレコードを乗せた。
「全部、AB面かけてください」
私の注文に、
「(レコード)ジャケットは必要ですか」
と徳間が尋ねた。
「いえ、要りません」
ジャケットも見ないから楽曲のタイトルも歌手の顔も名前も分からない。14曲。聴き終わるのに一時間ほどかかった。つまらない、売れない曲が多かった。徳間は緊張した面持ちで私を注目している。
「男が歌っている曲で、♪あの人は行って行ってしまった♪、というのがありますね。それが大ヒット。大勝負してください。それからもう一枚、女の子が歌っている、♪困っちゃうな♪ってのがありましたがそれが中ヒット。この二曲で勝負です。後は捨ててください」
それで私のアドバイスは終わった。私が選んだ男が誰か、女が誰かにも興味はなかったから、それで社長室を後にした。
このときアドバイス料か車代を貰ったかどうかまったく記憶にない。記憶にないということは十万~二十万円も貰っていないということだろう。それだけ徳間康快はケチだったということでもある。
話は前後するが、徳間が金にケチで約束を違える男であることを証明する大事件がその後勃発することになる。
徳間がミノルフォンレコード買い取った後、前社長の作曲家遠藤実が、ある演歌歌手のことで広域暴力団から命を狙われる事件があったのだ。この仲裁にも私が入らざるを得なくなった。(次回に詳述する)
徳間氏と別れて数ヵ月後、テレビから、 「ミノルフォンレコード五木ひろしさん(写真)に歌っていただきます。デビュー曲『よこまは・たそがれ』です!」
の司会者の声が聴こえると、画面から♪よこはま、たそがれ、ホテルの小部屋♪という歌声が流れてきた。
あれ、聴いたことがあるな、と思いながら特徴のない声と特徴のない顔の男が歌う一番の最後の詩、♪あの人は行って行ってしまった♪で、ああ、私が徳間に大ヒット間違いなし、大勝負を、と推薦した曲じゃないか。
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