筆者・渡辺正次郎(作家・政治ジャーナリスト)。音楽専門誌の編集長の傍ら、藤圭子など多くの歌手を発掘。その後、政界に転身。二・二六事件の時に岡田啓介首相を救出、また、わが国の戦争終結に尽力した故・迫水久常 参 議院議員の秘書などを務める。現在は作家・政治ジャーナリストとして執筆の傍ら、政治家のブレーン、選挙参謀として活躍中。『この国の恥ずかしい人々』、 『田中角栄の遺したもの』、『こんな政治家は辞職せよ!』(以上、日本文芸社)など著書多数。なお、この4月12日よりHP=「NEWS TODAY・政界、財界、官界一刀両断!!」 を再開(有料。ここをクリックしても料金は取られません)。


  話を戻そう。筆者は台東区浅草出身だが亀戸は来たことがない。ただ、工場街だということは知っていた。支配人の電話で両国橋を渡り、亀戸駅を左に見て右折 したが、工場ばかりでこんなところにキャバレーがあるのか、と心配になった。何度か道を右左に曲がると、前方に点滅する真っ赤なネオンが出迎え、入り口で 傘を差して手を振っている男が浮かび上がった。
「いやぁ、こんな雨の中、すみません」
 恐縮する白神支配人の先導で、店に一歩足を入れると、薄暗い店内から耳を劈くようなジュークボックスの音楽と嬌声とだみ声と、店内が霞むほどに充満したタバコの煙が出迎えた。川端康成が書くような紫煙なんて表現はまったく相応しくない。
  タバコの霞の向こうに作業服のままの工員さんたちと、化粧の下手な田舎くささ丸出しホステスたちがドンちゃん騒ぎしている。暗い足下を注意して進むと、目 に入るボックス席はタバコの火で穴だらけ。「まいったとこに来たな」ーーそう思いながら、用意されていた一番奥のボックスに座った。急ごしらえの特別席と いうことだろう。そこの座席もタバコの火で穴だらけだった。
 気がつくと同じテーブルを挟んで薄暗いキャンドルの向こうに、石川啄木の“働けど働けど わが暮らし楽にならざり じっと手を見る”、今でいう「負け組」を背負ったような顔をした4~50歳の男と、14、5歳に見える青白いおかっぱ髪の少女が居る。
 支配人からいい子(娘)と聞いていたから正面から見た。美少女の部類に入る。その少女の傍らに白いギターが一本あった。
「正次郎先生、この子(娘)です」
 白神支配人の紹介で、目の前の少女が立ち上がり、「初めまして、阿部純子(藤圭子=写真)と申します」と少女が声を発した。ハスキーな声だった。


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