中高一貫校では高二までで高校のカリキュラムが終わるので、高三は演習に当てることができる。しかし、その分授業の進行は速く、ついていけない生徒も少なくないようである。こうした生徒は、志望校を下げるか、一念発起して東大などの最難関校を志望するかの選択を迫られる。後者を選んだ場合、中高一貫校のカリキュラムは優秀な生徒向けに設計されているため、それに頼ることは難しく、予備校に通うのが一般的である。
麻布では、TJさんによると「学校側としては受験対策にほとんど力を入れていなかったので、生徒のレベルも高校3年生になるまではあまり高くなかったです(むしろ自分を含めてすごく低かったように思えます)。皆高3の1年でどうにかしようとするため浪人率、浪人者数も非常に多かったです。かくいう自分も浪人経験者です」(「私の東大合格作戦2018年版」、10-11頁)。麻布の学風として、高三の時点での成績に関わりなく、「とりあえず東京大学を志望するという風潮」(同前、10頁)があり、中学受験の最難関を突破した経験の持ち主であることもあり、そこからでも受かるようであるが、現役合格率は高くない。
このユニークな学風からか、「私の東大合格作戦」に投稿する人も多く、2010年代には3人が投稿している。他の御三家では武蔵が1人だけ、開成は全くおらず、対照的である。ただし開成は2020年代に入り2人投稿している。
高三の一年でどうにかなることもあれば、ならないこともある。麻布で「私の東大合格作戦」に2010年代に投稿した3人のうちでは、現役合格者は一人しかおらず(SIさん、「私の東大合格作戦2017年版」)、残りは一浪している。麻布のような中学受験のエリートですら、高三から始めると厳しいということのようである。海城高校出身の呉座勇一氏は高3時点では英語も数学も未完成であったものの、文3であるが現役合格している(「私の東大合格作戦2000年版」)。
SIさんは高2の冬からZ会東大進学教室に通い始めたが、英語が苦手で、高3の三学期に東大英語から難関大英語にレベルを下げても成果を上げられず、四谷学園に転塾して5文型から学び直したそうである。親からは、授業についていけないなら意味がない、基礎から始めるべき、とアドバイスされたという。進学校に通っていても基礎が不足しているケースは珍しくなく、その場合は基礎からの学び直しが必要である。この親の助言は適切であり、麻布に通う生徒の親ならではの的確な判断といえるであろう。