軽やかな三味線の音。琴の響き。
とらとらをしているお座敷からは
どっと楽しげな声が沸き起こる。

秋も深まり、少しずつ寒さが近付くこの季節。
忙しい年末前に、また、人肌恋しい秋の夜に
一夜の夢を過ごそうと、島原は賑わいを見せていた。

幾重にも重なる音の中
私は菖蒲さんの名代に向かっていた。

裾の乱れに気をつけながら、階段を上がった廊下の先。
秋の夜風を取り込む窓から、月に照らされ目的のお座敷が目に入る。

聞き馴染んだざわめきを、どこか心地好く感じつつ
背筋を伸ばして気を引き締めた。

ゆっくりと廊下に踏み出した時だった。
ガシャン。
陶器の割れる異質な音が耳に届いた。

すぐ横のお座敷から、男性の声が聞こえてくる。
言い合いのような声が飛び交って
それからまた、何かがぶつかる重い音。

一瞬、驚きに肩が跳ねたけれど
喧嘩とか、酔ったお客さんの対処にも
すっかり慣れたものだった。

中の様子は気になるけれど
お店の人を呼んで来るのが第一だ。

そう思い、誰かを探しに行こうとしたはずだった……。

『××××××……』

襖の向こう、くぐもる声が私の足を止めさせた。
他のお座敷の喧騒が、すーっと消えるように遠退いていく。


誰かに害を成す不穏な単語が聞こえた気がして
足が、身体が、石のように固まった。

何と聞こえたのかはわからない。
何も聞こえてはいなかったかもしれない。

それでも
『お座敷に居るのは、攘夷派の人達だ』
それは直感のようなものだった。

何かを考える余裕もなく、聴覚だけが研ぎ澄まされて
ただ、無意識に息を詰めた。

「…~刻に……××で……」

心臓の音が煩くて
肝心な事が聞こえない。

この場に居てはいけないと、頭の隅で警鐘が鳴る。


でも、金縛りにあったみたいに身体はピクリとも動かずに
呼吸だけが速くなる。

「!!」

突然、後ろから口を塞がれ声にならない悲鳴を上げた。

抵抗するとか、そんな事をするより早く
襖の向こうに押し込まれる。

「なっ、なんだ!?」

お座敷の中の人達が、驚いたように身構えた。

「聞かれていた」

私を捕まえた人物の、酷く冷静な声にぞっとする。
倒れこんだ私の袖を踏み付けて
見下ろす瞳の鋭さに、どっと汗がふきだした。

見た目は浪人風のその男は、けれど
ただ者ではない気迫を帯びている。

私を追い詰めたその人は懐から何かを取り出した。


鞘から抜かれた銀色が、蝋燭だけの薄闇に
ギラリと異質な光を放つ。

「どこの者だ」

首元に押し付けられた冷たさが、脅しではないと言っていた。
血の気が引いて、男の気迫が肌を刺す。
心臓は破れそうなほどに暴れていて
渇いた喉からは浅い呼吸しか吐き出せない。

恐怖に固まる私の様子を黙秘と捉えたのか
男の表情が険しさを増す。

「女だからと容赦はせぬぞ」

ぐっと刀が食い込んで、そこから何かが伝っていく。
血が出たんだと、わかったけれど痛みは無くて
ただ、首元が燃えるように熱かった。

混乱した思考回路が
めちゃくちゃにあちこちを駆け回る。
ほんの数秒の出来事が、永遠に続くように感じられた。

男が焦れたように舌打ちをする。


「ここでは騒ぎになる。外に連れ出し責問を――」

「俺の女に何をしている」


突然聞こえた新たな声に

その場の空気が一変した。



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不穏なの嫌いなくせして書きたくなっちゃったー(´ω`)

5話ぐらいになりそうだけど、きっと秋には書き終わらないなw


さあ。助けに来てくれたのは誰でしょうー?(・∀・)