改造した九三式魚雷に人間が乗り込み、操縦士もろとも敵艦へ突っ込む特攻兵器「回天」


「回天」は潜水艦へ搭載され、敵艦を発見すると操縦士が乗り込み母艦から発進。

発進後は一旦海面まで上昇し潜望鏡で目標の位置・速力・進行方向を確認し、敵艦と「回天」の未来位置が重なるように射角を設定し、発進から命中までの時間を予測し発進。

ストップウォッチで時間を計測しながら突入し、命中までの予測時間を過ぎても命中しなかった場合は潜望鏡を上げもう一度索敵を行い再突入するという方法がとられました。


「回天」は1.5トンもの爆薬を搭載し、命中すれば戦艦や正規空母をも1発で撃沈できる事から海軍首脳部から絶大な期待を寄せられ、若い搭乗員達は敵艦撃沈を目標に厳しい訓練に耐え出撃していきました。本書著者の横田氏もその中の1人で大戦果を期待され3度出撃しますが、満足な整備をする事ができない「回天」の故障と敵の爆雷攻撃による母艦の損傷で3度の帰還を強いられました。


敵艦へ突入できず帰還した搭乗員達を多くの人達はあたたかく迎えてくれましたが、なかには「盛大に送り出したにもかかわらず、おめおめと帰りおって。卑怯者め」などと冷たい目で見る将校もおり、生き残った隊員達は先に突入し散っていった先輩や戦友に対し「自分だけ生き残ってしまい申し訳ない」という気持ちや、「大戦果を期待され出撃したにもかかわらず生き残ってしまった」、「早く敵艦に突入し死にたい」という気持ちで次の出撃を待っていました。


2度の帰還を経験し、3度目の出撃で敵艦へ突入した久家(くげ)稔 海軍少尉は、同じ出撃隊で「回天」の故障のため出撃できなかった横田氏をはじめ3人の戦友を思い基地隊員へ宛てメッセージを残しました。



基地隊員の皆様へお願い


「艇の故障でまた3人が帰ります。一緒にと思い仲良くしてきた6人のうち私達3人だけが先にゆくことはとても淋しいかぎりです。

 みなさんお願いします。園田・横田・野村、皆初めてではないのです。2度目、3度目の帰還です、生きて戻ったからと言って、冷たい目で見ないでください。園田は故障で出られないと分かった時、士官室で泣いておりました。園田の気持ちは、私には分かりすぎるくらい分かるのです。

 この3人だけは、すぐまた出撃させてください。最後には、ちゃんとした魚雷に乗って、ぶつかるために、涙をのんで帰るのですから、どうか温かく迎えてください。お願いします。

 先にゆく私に、この事だけがただひとつの心配事なのです。」


これから死に向かう久家少尉が生き残ってしまった自分達を心配してくれていた。

これを知った横田氏は、「生きて帰ってどんな目で見られてもいい。卑怯者と言われてもいい。経験の無い者には我々の気持ちが分かるはずが無い。何も言わず帰り完備された魚雷で敵艦へ突入し仇をとる。」と新たな決意で帰還しましたが、3度目の帰還後は出撃する事無く終戦を迎えました。


戦果をあげて死ぬ事だけを目標にし、帰還のたびに肩身の狭い思いをした特攻兵器「回天」搭乗員の手記。




内容(「BOOK」データベースより)

内蔵された高炸薬もろとも突入、敵艦を屠る人間魚雷「回天」―鋼鉄の棺の中に己れの青春を封じ込め、生還ゼロパーセントの攻撃に三たび出撃、空しく帰投した不屈の男が、祖国の栄光をひたすらに信じて不条理の渦中に身を投じた僚友たちの知られざる奮戦と苦悩の日々を赤裸々に描いた感動のノンフィクション。


あ丶回天特攻隊―かえらざる青春の記録 /横田 寛 /光人社

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