鳥巣清典の時事コラム1640「アベノミクスに残された『最後の矢』=JPモルガン銀行佐々木融氏」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1640「アベノミクスに残された『最後の矢』=JPモルガン銀行佐々木融氏」

コラム:アベノミクスに残された「最後の矢」=佐々木融氏

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アベノミクスは金融政策をほぼ使い果たした

[東京 9日] - ドル円相場は、5月米雇用統計が予想を大幅に下回ったことを受けて、108円台後半から106円台半ばまで急速に円高・ドル安が進んだ。しかし、仮に米雇用統計があれほど弱い結果となっていなくても、遅かれ早かれ、反落基調に入っていたと考えられる。

なぜなら、5月中のドル高・円安方向への調整は、すでに6月1日の時点で終了し、ドル円相場は反落基調に戻り始めていたからである。きっかけは、1日の安倍首相の記者会見だ。

現在、海外投資家が日本に関して最も注目しているのは、第2次補正予算の規模である。日本のメディア報道によれば、その規模は5―10兆円で、9月末にも召集される臨時国会で審議される可能性があるという。

しかし、海外投資家は、第1の矢である金融政策が限界を迎える中、第2の矢である財政政策を矢継ぎ早に放たなければ2%のインフレ率、2%の実質成長率の達成は難しい、とのロジックから、1日の記者会見で、安倍首相が消費増税の先送りとともに、10兆円以上の補正予算を発表することを期待していた。そうした期待が脆くも崩され、円買い戻しの動きにつながっていたのだ。

アベノミクスは開始後3年間、第1の矢に頼り続け、それをほぼ使い果たしたマイナス金利という最後の第1の矢は、日本経済にマイナスの副作用を与えてしまっている。


第2の矢も財政支出を膨らませる余裕はない

そこで、政府は今、第2の矢、つまり財政政策に焦点を移し、これに頼ろうとしており、マーケットもそちらに期待をし始めた。ただ、第1の矢と根本的に異なるのは、日本には第2の矢がほとんど残っていないという事実だ。政府債務残高は国内総生産(GDP)の200%と先進国の中では圧倒的に多く、財政支出を膨らませる余裕はない。マーケットはそのことを早くも思い知らされている状態と言える。

痛み止めと強壮剤で経済の実力は上がらない

アベノミクスは、本格的に第3の矢(構造改革・規制緩和)に頼るしかなくなっている。そもそも、こうした事態に陥るのは必然だった。本コラムで何度も指摘している通り、マーケットは実体経済を映す鏡でしかない。実体経済が変わっていないのに、鏡が違う姿を映し続けることはできないからである。

日本経済の潜在成長率は0.3%程度にすぎない。痛み止め」の第1の矢(金融緩和)や「強壮剤」の第2の矢(財政支出)を使って一時的に本来以上の力を発揮したとしても、それは一時的なものに終わる。円相場に振らされる株価は、その企業の本当の収益力を反映しているわけではないだろう。

マーケットは、日本が痛み止めや強壮剤を使っている姿にだまされたのではなく、その間に第3の矢(構造改革・規制緩和)で大胆な手術を行ってくれるだろうと期待して、それを織り込んできた。しかし、痛み止めが効かないどころか副作用まで広がり、また強壮剤も在庫が無いことに気づき、失望し始めている。

「劇薬」ヘリコプターマネー作りを始める?


そうした中、一部の市場参加者は、残った痛み止めと強壮剤を混ぜ合わせて、ヘリコプターマネーという「劇薬」を作ることを推奨し始めている。政府と日銀が劇薬を作り始めれば、マーケットは再び反応するだろう。最初は過去3年間と似たような反応になり、ポジティブな効果が出たように映るかもしれない。

しかし、その時の反応は、大胆な手術が行われ、実力が高まることへの期待ではなく、劇薬に頼り続けなければ生きていけなくなることへの期待、つまり何度も劇薬が投与されることへの期待となるだろう。

日本はこのあたりで一度冷静に今後の方針を考える必要があるのではないだろうか。大量の痛み止めや強壮剤を使ってみたら実力も上がるかもしれないと考え、チャレンジしたことを今から批判しても仕方がない。実験してみなければ、いつまでも効果があるとの意見がくすぶっていただろう。

ただし、痛み止めや強壮剤だけでは実力は上がらなかったことが分かった今、劇薬でまやかしの姿を作るのではなく、そもそもどのようにして日本経済の本当の実力を上げていくかを考えるべきではないだろうか。

確かに、痛み止めの効果が薄れ始め、強壮剤の在庫が無い中で、大胆な手術を行うのは難しいかもしれない。しかし、少しずつでも痛みを感じながら手術を行っていかなければ、日本経済の本当の実力は回復しないはずだ。今後は第3の矢だけに頼って実力を回復することを考えた方が、マーケットは評価するのではないだろうか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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松田まなぶ氏のコラム。
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松田まなぶの「永久国債の研究」がバーナンキのおかげで一躍注目されているそうです。

 松田まなぶが以前書いた「永久国債の研究」(光文社)がアマゾンで最高10万円の売値がついているそうです。
 
米国のバーナンキ前FRB議長が首相官邸を訪ねたことがヘリコプターマネーへの期待を呼んで円安要因にもなりましたが、その際、永久国債に言及したことが明らかになったことを契機に、発刊時には1,000円程度で今や絶版の本書が俄然、注目を浴びているようです。
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この本は、私の仲間たちとともに4人で分担執筆した共著ですが、ページ数で全体の6割を占める永久国債の肝心の論考部分はすべて、私が執筆しました。
 執筆当時、私は政界に出る少し前の現役の財務官僚でした。官僚の枠を超えて思い切ったことを書いたつもりでした。

 今も、財政金融政策を考える一助となれば幸いですが、当時の立場上の制約もあって、個人的見解とはいえ、控えめに書いたものでした。今なら、もう少し、永久国債の議論を深堀してアベノミクスへの提案につなげられると思っているところです。

 従来の財政金融の常識からいえば、永久国債など眉唾モノだと思われたかもしれません。
 しかし、その後、アベノミクスで日本の経済政策は、課題先進国の名にふさわしい壮大な実験的領域に踏み込みました。
 これを成功させ、次なる課題である財政をどうするかを考えるためには、従来の常識を超えた発想が必要になっていると考えます。少し頭を柔軟にしてみてはどうでしょうか。

 本書執筆後、政界に出た私は、たちあがれ日本という政党で政策立案に携わった際に、「成長成果配当型無期限国債」という永久国債を提案して、同党のマニフェストに盛り込まれました。
 日本維新の会の衆議院議員になってからは、永久国債の議論は控えていましたが、次世代の党の結党で政調会長代理になってからは、いつぞや、こうした考え方を政策体系化したいと思っていました。
 前回の参院選では、与党の立場で自らの政策体系を少しでも実現したいとの思いから目指した自民党公認は残念ながら得られませんでしたが、永久国債の考え方は、これからの財政を考える上で欠かせない要素になるものだと思っています。

 未来への閉塞感を打破し、国民に夢を。今、次なる財政運営の構想を練っています。


永久国債

読み方:えいきゅうこくさい
分類:債券|分類

永久国債は、永久債の一種で、償還期限(満期)の定めがない国庫債券国債)のことをいいます。また、永久債とは、満期がない債券をいい、通常、元本の償還規定がなく、発行体が存続する限り、永久に利子が支払われます。その仕組みは、発行体が望む場合のみ償還が可能である一方、投資家(購入者)は償還を要求できません。

これまで、永久国債は、日本では発行されたことがありませんが、英国では、その昔、第一次世界大戦の戦費を支払う「戦時国債」として発行されたことがあります。ちなみに、2012年3月に英国が財政危機を乗り切るための奇策として、永久国債の発行を検討していることがメディアで報じられました。

(*金融経済用語集)