鳥巣清典の時事コラム1633「ソフトバンク 英ARM買収 IoT強化が焦点」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1633「ソフトバンク 英ARM買収 IoT強化が焦点」

ソフトバンク 英ARM買収 IoT強化が焦点

通信大手のソフトバンクグループは、イギリスに本社を置く世界的な半導体開発会社ARMホールディングスをおよそ3兆3000億円で買収すると18日発表しました。会社側はあらゆるモノをインターネットでつなぐIoTと呼ばれる技術を次の成長分野に位置づけており、巨額の買収額に見合う形でどこまで強化できるかが焦点となります。

ソフトバンクは、イギリスに本社を置く半導体開発会社ARMホールディングスのすべての株式をおよそ240億ポンド(日本円で約3兆3000億円)で取得し、完全子会社とすることで両社の間で合意したと18日発表しました。
ロンドンで開いた記者会見で孫正義社長は買収の理由について、あらゆるモノをインターネットでつなぐ新しい技術IoTの事業を強化することがねらいであると説明しました。そのうえで孫社長は「この規模の投資は初めてであり、大きな賭けであるが、次の大きなパラダイムシフト(=その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することはIoTになる」と述べ、インターネットの主役がパソコンからスマートフォンに移ったように、次はIoTに移行するとして、IoTに欠かせない最先端の半導体技術を持つARMを買収する意義を強調しました。

ソフトバンクを巡っては、中国のネット通販最大手アリババグループなど保有する株式を相次いで売却し、総額1兆8000億円の資金を確保していますが、今回、金融機関から新たに1兆円の資金を借り受けるとともに、アメリカの携帯電話会社などこれまでの相次ぐ買収で、ことし3月の時点で有利子負債はおよそ12兆円に上っています。これについて孫社長は「携帯電話事業などで安定して手元の現金は確保されており、実際の負債は大きくは変わらない」と説明しました。
日本企業による海外企業の買収としては、過去最大規模となる今回の買収にあたって会社側が次の成長分野として期待するIoTの事業を巨額の買収額に見合う形でどこまで強化できるかが焦点となります。

ソフトバンクがねらうIoT

IoTは工場の生産設備や製品などあらゆるモノにセンサーと通信の機能を持たせ、それをインターネットでつなぐ新しい技術です。
例えば世の中のあらゆる家電製品がネットにつながると、冷蔵庫の中身の食品をコンピューターが把握して外出先にいる家族に対し自動で買い物が必要な品を伝えたりできるような活用方法が考えられています。
また、これから実用化が進む自動運転車と、道路の標識や信号などがネットで結ばれると、車どうしが位置情報を交換したり、車と道路の標識や信号と連携したりして、交通事故や渋滞を防ぐことができるようになると指摘されています。
このようにIoTの技術によって、利便性や生活の質を大きく高めることができると期待されているのです。
また、工場の生産設備や工業製品に導入すれば、そこから得られる膨大なデータを製品の開発や故障の予測に生かすこともできるとされています。

消費電力低いARM社の半導体

ARMが手がける半導体製品の基本設計の技術は、特に消費電力の低さが特徴です。IoTの世界では、センサーや通信を制御するための半導体製品をあらゆるモノに組み込む必要があり、消費電力の低さは大きな強みになると見られています。さらに、ソフトバンクとしては、セキュリティーの強化にあたっても半導体の技術は欠かせないとしています。IoTが普及すれば、さまざまなモノがネットにつながるため、外部からのハッキングなどのリスクも高まります。製品に組み込まれる半導体にセキュリティー対策を施すことで、こうしたリスクに備えることができるとしています。
ARMの技術が採用されているのは、現在は、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器が中心ですが、ソフトバンクとしては、将来、その用途が大きく広がると期待し、買収によってIoTの分野で主導権を握るねらいがあります。

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PS①

ソフトバンクは何故べらぼうな値段でⒶRMホールディングスを買収するのか?

 BBC、ニューヨーク・タイムズなどの報ずるところによれば、ソフトバンクが英国のケンブリッジに本社を置く半導体知的所有権会社、アーム・ホールディングス(ティッカーシンボル:ARMH)を240億ポンド(3.35兆円)で買収する交渉中だそうです。これは先週末の同社株の引け値より42.9%のプレミアムです。

 アーム・ホールディングスはマイクロプロセッサーやグラフィックス・チップの設計に関する半導体知的所有権(SIP)を保有する企業です。

 同社は、言うなれば「デザイン特許」のようなノウハウを売る会社なので、納品すべき品物(deliverables)がありません。このため、ほぼ「売上高=粗利」になります。グロスマージンは95.9%です。同社の営業費用のうち65%が研究開発費です。つまり同社は「R&D――研究開発ーーのかたまり」みたいな会社なのです。ちなみに営業マージンは42%です。

 同社の回路設計の基本デザインはアーム・コアと呼ばれ、スマートフォン、デジタルTV、自動車などに組み込まれています。

 アーム・コアの特徴は消費電力が少ない点です。

 とりわけ同社の「バージョン8アーキテクチャー」はいま世界で出荷されている最新鋭のスマホの60%に採用されています。

 また同社はネットワーク・インフラストラクチャを構成する機器の15%に食い込んでいます。

 さらに自動車やIoTなどに埋め込まれた、センサーに連動するプロセッサーにおけるシェアは25%となっています。

 売上高の55%はロイヤリティー収入、つまり半導体デザイン会社がアームに対して払う「使用権」収入です。そして36%はライセンシング収入です。

 同社は無借金経営であり、バランスシート上には9.5億ポンドのキャッシュが載っています。

1

【略号の読み方】
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり売上高



さて、ソフトバンクと言えば米国のスプリントの買収が思い出されます。しかしスプリントは業界第3位の、しかも長年、放漫経営されてきた「ポンコツ会社」の買収でした。言い換えれば、バリュー投資的な切り口だったということです。

それとは対照的にアーム・ホールディングスは世界の半導体関連企業の中でも最もピカピカの会社であり、もちろん英国のハイテク企業の中では最も尊敬されている存在です。

したがって、今回噂されているような42.9%のプレミアムを支払うのは当然だと思います。

アーム・ホールディングスは「バージョン8アーキテクチャー」の発表以来、新規案件の獲得が加速しているように見えます。つまり今買わないと、2~3年後には、もう手が届かなくなる可能性が高いということです。

しかも英国のEU離脱をめぐる国民投票でポンドが安くなっているので、今は千歳一隅のチャンスというわけです。

またスプリントが、ボロ会社を立て直さなければいけない、たいへん手間のかかる案件であったのに対し、アーム・ホールディングスの場合、すでにマーケット・リーダー企業であり、しかもノウハウを売る会社なので、手直しや経営の軌道修正は、一切必要ありません。

Market Hackとしては、この買収には大賛成です。


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PS①

経済産業省に5年前に取材したとき、「昔のように護送船団とか経産省が音頭を取って引っ張るという時代ではない」(担当者)。

PS②
 
 先日NHKの討論番組で民進党の枝野氏が「どこに投資をすればよいとか。そういう事が苦手だから政治家になった人たちばかりがここにいる訳ですから」。

PS③

 数年前から言われています。「これからの日本の最大の問題は、何で稼いでいくか?」


PS④

昨今の日本の経常収支は、貿易黒字が縮小する一方、所得収支が対外債権の増加を背景. に黒字を維持。「所得収支」とは<海外から得た利子や配当(投資収益)>などの収支を指します。