鳥巣清典の時事コラム1632「山田方谷『それ善く天下の事を制する者は事の外に立ちて事の内に屈せず | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1632「山田方谷『それ善く天下の事を制する者は事の外に立ちて事の内に屈せず

 NHK『知恵泉』で「山田方谷~借金100億を完全再建」。





160年前にいたとんでもない経営改革の達人


1、全日空の元社長・現在は相談役の大橋洋治氏がゲスト。

「大橋洋治」の画像検索結果

「山田方谷は、私がいちばん尊敬する江戸末期の人です」(大橋氏)。

2、今から160年以上前にとてつもない経営改革の達人がいました。その名は、山田方谷。当時、日本中の政治家が改革のお手本として憧れた人物です。方谷が活躍したのは現在の岡山県。中国山地の山間の小さな藩・備中松山藩。藩の財務大臣だった方谷は、今に換算して100億円以上の借金をわずか8年で返済。新たな産業を興し貿易を発展させ近代ビジネスの先駆けのような成功を収めます。
 その才能は、百戦錬磨の商人からこう呼ばれるほど。「常器(じょうき)にあらず」ーー只者ではない。強い信念と大胆な実行力。ある時は、人が見守る前でなんと大量のお札を燃やしてしまいます。これを皆は納得ーーいったい何故? 特産品で大事なマーケット戦略。一部は遠く江戸まで運んでいったところ大ヒット。手間や費用をかけた以上に儲けたその秘策とは?

 痛みを伴う改革は、誰もが不安になるもの。でも方谷には秘策がありました。その名言ーー
其の義を明らかにして其の利を計らず>。
 現代の経営者の心も揺さぶる、山田方谷。誰もが納得の経営改革術に迫ります。

全日空が危機に瀕した時に山田方谷に教わった(大橋元社長)


2、今宵一緒に読み解くのは、大手航空会社の大橋洋治さん。社員1万人の元社長で今も相談役として活躍中。飛行機の整備から人事、営業など、現場の叩き上げから社長になった大橋さん。ところが大きな危機に見舞われます。アメリカ同時多発テロ。新型肺炎SARSの流行。海外への旅行者は激減し、会社は赤字に転落します。経営改革に乗り出した大橋さんは、社員の給料カットを断行。これに社員が反発します。

 この時、大橋さんは自ら社員の中に飛び込んで改革を行いました。その結果、痛みを伴う改革を納得してもらう事ができたといいます。とかく人に恨まれがちな「改革」という大仕事。納得できる経営改革を実現できた大橋さんと共に山田方谷の改革の知恵を紐解いていきましょう。

3、「私が山田方谷を知ったのはーーまさに会社が危機に瀕しているときーーどうすればいいかという事がありまして。それを山田方谷に教わったんですね」(大橋氏)

 そこへ東京大学史料編纂所の山本博文氏。

アバターアバター「前に河合継之助の話をしました。越後長岡藩の家老で藩政改革をやった。あの人の師匠にあたるんですね。どこの藩でも幕末は苦しい。藩政改革をやるけど、なかなかうまくいかない。山田方谷は珍しく上手くいくので河合も教わりに行くんですね」。


山田方谷の家は農家で菜種油を売って収入を得ていた


4、山田方谷の生い立ちから紐解いていきましょう。<今から210年前、山田方谷は備中松山藩、現在の岡山県高梁市に生まれました。方谷の家は農家。田畑を耕す傍ら菜種油を売って収入を得ていました。方谷15歳のとき父が死去。家業を継いで家を支える一方、方谷は学問にも熱中します。仕事が終わると夜遅くまで書物を読みふける毎日でした。14歳で読んだ漢詩に将来の抱負が綴られています。『済世の志』ーー世の中を救いたい。
 優れた才能が藩からも期待され、方谷は江戸などに留学。帰国後32歳で藩士の師弟を教える学校の校長になります。さらに方谷は、藩主板倉家のお世継ぎ教育まで任されます。まさに備中松山藩が誇る学者だったのです。その頃、備中松山藩は、重大な経営危機に直面していました。10万両、現在の100億円の借金を抱え、財政破綻寸前だったのです。
 当時の藩の財政状況です。藩の重役たちが商人たちから借りた借金10万両。これに対して年貢米による収入はおよそ2万8000両でした。ここから必要経費を引くと、借金返済に充てられるのはわずか1000両。しかも実は、借金の利子が9000両もあるため全て支払っても8000両の赤字。この赤字分を藩の重役たちは同じ商人から借りてその場をしのぐという、まさに悪循環。しかも劣悪な経営実態を商人に知らせていないというありさまでした。
 備中松山の貧しさは、参勤交代のときに駕籠かきが「貧乏板倉」と陰口を叩くほどでした。故郷が苦しむ中、30代の方谷は国のあるべき姿を模索していました。古くは古代中国から礼を取り政治家はどのように国の経済に取り組んでいくべきかを記した方谷の論文です。その中の代表的な一文ーー
君子は其の義を明らかにして其の利を計らず」。政治家はビジョンを明らかにすることが大切で、目先の利益ばかりに捉われてはいけない。利益はビジョンを実現していくなかで後から自ずと付いてくるものだ。

 そして方谷45歳。自ら教育を施した藩主・板倉勝清から重大な任務を命じられます。元締め役ーー藩の財政の全権を握るいわば財務大臣です。借金まみれの財政を立て直すという難題を背負った方谷。はたして持ち前の経済理念を現場で実現できるのでしょうか。


天下の仕事をなす者は大所高所から物事を見なさい


5、その『理財論』の一説に実は大橋さんがお好きな言葉があるとか。<
それ善く天下の事を制する者は、事の外に立ちて、事の内に屈せず。しかるに今の理財者は悉く財の内に屈す>(良く天下の仕事を為す事が出来る者は、物事の外に悠然と立って物事を考察し、物事の渦中に取り込まれる事は無い。それにも拘らず、現在の財務担当者は総て財政の事しか考える事が出来ずに袋小路陥っているのだ。)
 「
天下の大きな事をやろうと思えば、「事の外」--つまり大所高所から物事を見て、物事を小さい観点から見るんじゃないよ、ということを言っているんですね」(大橋氏)

「備中松山藩は慢性的な財政危機にある。財政の担当者は目先の増税とか『倹約、倹約』とかやっていくけれどうまく行かない。だからそういう専門性にこだわらない、国のあり方とか今後の方針とか、そういう広い視野で回復できる人物。それが必要で、そういう改革が必要だということを言っている」(山本氏)

ビビる大木「大局的に見れないですよ。ついつい細かいとこを見ちゃう。それじゃ駄目なんですね。視野がね。もっと全体的に見て・・」
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「そこだけだとどうしても、どんどん小さい方に行っちゃうんですね。そうではなくてもっと大きな視野から見ないと、大きな改革は見えないーーそういうお話なんですね」(山本氏)


真実を明らかにし数100件もの返済改革を明確に


6、山田方谷の知恵ーーその1「悪循環は徹底的に断ち切れ」

財政改革に乗り出した方谷。まず取り掛かったのは、慢性的な借金体質。悪循環を断ち切る対策です。積り積もった借金10万両の利子を払うため、藩の重役たちが同じ商人から借金を繰り返す現状。これを止めねばならない。
 方谷は自ら、多くの貸主がいた大阪へ向かいます。集められた商人たちは耳を疑います。何と方谷は藩の重役たちが隠してきた最悪な財政事情を暴露してしまったのです。方谷は商人たちに、このままカネの貸し借りを続ければいずれ共倒れになり、元金すら回収できなくなると説得。そのうえ立て直しのビジョンを提示。数100件もある借金の返済改革を明確に説明しました。
 驚いた商人たちは、方谷をこう評します。「常器にあらず」。信任の元締めは、只者ではない。必ず改革を成し遂げるはず。納得した商人たちは、方谷の要望である利子の一時棚上げや返済期限の延長を受け入れます。痛みを伴う姿勢に協力していく姿勢を示したのです。


悪循環は徹底的に断ち切ることで第1歩を踏み出す


7、さらに藩が発行するおカネ、藩札にも断つべき悪循環がありました。藩札とは藩の領域内の商取引に使わられる紙幣。金貨や銀貨と同じ価値を持つものとされている。本来藩札を発行するには額面と同じ貨幣と交換できるよう藩は財源を持っていなければならない。しかし備中松山藩はこれまで幕府の公共事業や災害対策など臨時の出費を賄うため大量の藩札を発行してきた。その結果、藩札の価値は大きく下がり、おカネとしての信用を失ってしまう。
 これにより藩内ではまともな経済活動が出来なくなるという悪循環に陥っていた。方谷は藩札の信用回復に乗り出す。カギとなるのは藩札と交換できる財源を確保すること。方谷は藩の施設を売り払い、藩主の給料の一部を削減。いわゆるコストカットを断行。こうして得られた財源を基に藩札を本来のレートで交換。信頼を回復させて健全な商取引が出来る環境を整えた。

 そのうえで、これまでの旧藩札を捨てて、新しい藩札の発行を決定。健全な経済活動を再開するためのスタートラインに立った。さらに方谷は悪循環を断つためもう1つ駄目押しをする。ある日、城下の河原に山積みになったのは、すでに用済みになった1万2000両もの旧藩札。方谷はそれに火を付けるや燃やし始めた。炎は何時間も上がり続け、見守る人々は度肝を抜かれたという。藩札を切り替えるということを視覚的にアピール。どうしても成功させるという決意の表れだった。

 悪循環を徹底して断ち切ることで人々を納得させた方谷。改革の成功に向け第1歩を踏み出した。

「藩札は信用で成り立っている。今までは藩が儲けるためにどんどん発行した。これは駄目だから焼いて、これは藩のためではなくて庶民、領民のために使うものだという事をきちんとすれば領民もそれに付いてきて新しい藩札だって使おうという気になる。これが流通する事によって藩の商売とかが活発になっていく」(山本氏)


経営において「嘘」はついちゃいけません(大橋氏)


ーー驚いたのが、大阪の商人の前に行って包み隠さず藩の財政こんなに苦しいんですというのを堂々と話してしまう。
「当時も珍しいとは思いますね。方谷自身が農民の出身だったから個人的な武士の面子にこだわらないでそういう正直な話が出来たという部分もあるとは思うのですが。商人の方も方谷の誠実な態度に感じて協力しようという事になったのでは。やっぱり嘘をついちゃいけないんですね、こういう時に;」(山本氏)
ーー経営において嘘は駄目ですか。
「嘘はついちゃいけません。出来るだけ皆に納得して貰ってやらないと駄目ですね」(大橋氏)
ーー実体験から感じたことが?
「例えばコストカットを100億やりたいと。それはダイレクト・トークでやった」(大橋氏)

経営危機に直面した大橋さんは、全社員の給料カットなど厳しい改革を断行します。そのとき社員を説得するために設けた話し合いがダイレクト・トークでした。大橋さん自ら毎週のように現場に足を運び会社の危機的状況を説明し改革の必要性を訴えます。
「皆反対する。だいたい評判悪いですね。だけど納得するように努力する」
ーーでも、あの人を説得しないと前に進まないよという場合には?(ビビる氏)
「それは正攻法しかない。納得して貰うように自らとことん話し合う。分かってもらうまで」
ーー分かってもらうには、まず正直に話すことが大事。あとは、どんなところが必要だと?
「ダイレクト・トークだと、私が1対50だけではなく、途中で皆で分かれて、例えば私が言っていることが正しいと思ったら私の側に立つ。正しくないと思ったらあっちへ付く。半分、半分になったり。私の方が正しいというのが圧倒的に多かったりもする。双方向でやると大分変わりましたね」(大橋氏)


経営改革その2「どうやって収入を増やすか?」


――相手の話を聞いているうちに、大橋さんが「あ、なるほど」という事も?
「出てきますね。例えばキャビンアテンダントが機内のトイレを掃除をするのを『世界一にしたい』
と。トイレの中にアロマテラピー、芳香性のを自分で買って備え付けて終わったら自分で持って帰ることを個人的にやっていた。私は会社でそういうのは買うから自分でそんな事をやっちゃいかんと。それが成立すると皆が喜びだす」

「相手が納得して一緒にやろうという気持ちにさせないと駄目なんですよね」(山本氏)
「やっぱり人間ですからね。人間を大切にしなきゃいかん」(大橋氏)

山田方谷 知恵その2<自前の強みも生かせ>

ーー財政改革を進めるうえで次の課題。それはどうやって収入を増やすかです。

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以下、随時加筆していきます。