鳥巣清典の時事コラム1631「2020年プライマリー・バランス黒字化の国際公約は事実上消滅」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1631「2020年プライマリー・バランス黒字化の国際公約は事実上消滅」

 NHK視点・論点で中央大学法科大学院教授の森信茂樹氏が「消費増税で生じる2つの問題」。

「森信茂樹」の画像検索結果


 「社会保障の充実のためには消費税増税」の声が消えた

 選挙前の世論調査で3割程度の意見として存在した「社会保障を充実するのであれば消費税増税はやむおえない」という国民の声はなくなってしまいました。3党合意の精神であった「消費税増税を政争の具にしない」という事がもろくも崩れてしまいました。

 国民の最大関心事はどの世論調査で見ても暮らしに直結する社会保障が上位にくる。その社会保障の持続可能性を裏打ちするのが消費税財源。16年度予算では社会保障32兆円のうち17兆円が消費税で賄われている。残りは他の税目や赤字国債で賄われている。また消費税収は全て社会保障費に充てる事とされている。

政治の現実ーー「選挙では消費税の話はしたくない」


 社会保障が最大関心事であるならば、当然その財源をどう賄うか。給付と負担を合せて考える必要がある。しかし政治の現実がそれを切り離して考えるようにしてきた。その理由は、消費税増税がこれまで多くの政権の基盤を揺るがせてきたので「選挙では消費税の話はしたくない」という心理構造からだと思われる。
 その結果、増税を先送りしても、あるいは増税しなくても社会保障は充実するという根拠の薄い公約が各党から出される事となった。世の中には冷淡・軽減国家と親切・重税国家の2つしかないという冷酷な現実を直視しないポピュリズム的な考え方が広がりつつある事を意味していないでしょうか。

 このような消費増税の先送りは、次のような問題を生じさせる。第1は経済活性化策との関係。アベノミクスが始って3年が経過したが実質経済成長率は平均で0・6%。その主因は、消費者の将来不安による消費の低迷。そこで持続可能な社会保障制度を構築し、格差貧困問題に対処し、皆が安心して働き消費できる社会を構築する事こそが求められている政策だと思います。

「マネーを供給すればデフレから脱却できる」は壁に


 マネーを供給すれば、デフレから脱却できるといういわゆるリフレ策は壁に突き当たっている。2015年の家計調査を使ってアベノミクス前後の我が国の所得の分布を比較すると、アベノミクス後はグラフの両脇400万円以下の層が厚みを増したのに対し、年収400万円から700万円の層が薄くなり中間層の崩壊が顕著に表れています。この傾向は資産・貯蓄についても同様でアベノミクス以降、中程度の貯蓄残高の比率が低下し、貯蓄残高3000万円以上の層の比率が上昇。このような所得・資産の2極分化の要因としては、正規雇用と比べて賃金水準の低い非正規雇用者の増大やアベノミクスに伴う株高の恩恵の偏りなどが考えられる。

 つまりアベノミクスで想定したトリクルダウン減少、円安による企業収益改善が賃金や設備投資増加につながり、中小企業や地方経済に普及していくという成長と分配の好循環は生じていない。このような状況の下で、経済対策として商品券の配布や年金生活者へのバラマキ給付を行っても効果は長続きしない。


必要なのは子育て中の「勤労世代に軸を移した」政策


 それより社会保障の肥大化を避けつつ、子ども子育てなど勤労世代に軸を移した政策により我が国の社会の2極化を避ける事が活力を取り戻す、つまり実力を底上げする政策ではないでしょうか。そのためには、消費税増税による財源が不可欠。

 また消費税の引き上げは、国民全員から負担を求めるので世代間の負担の公平化に役立つ。所得増税と比べると働いた事の対価である所得に課税するのではなく選択的な行為である消費に対して課税するので人々にも受け入れられやすく、経済に対する負荷も小さいといえる。

 一方で消費増税は所得の低い方に負担増になる。それに対して低所得者には還付や給付による負担軽減を行うという方法があり、実際多くの先進国では働くことを条件に税金や社会保険料負担を軽減する事が行われ効果を挙げている。


消費増税延期で2020年P・B黒字化は事実上消滅


 2番目の問題は、2020年にプライマリー・バランスを黒字化するという我が国の国際公約が事実上不可能になったという事です。そもそも17年4月に消費税を10%に上げ、アベノミクスが実質2%、名目3%とうまくいったとしても2020年のプライマリー黒字化には6・5兆円不足するというのが消費税増税前の姿でした。
 つまり20年には10%を超えるもう一段の消費税率の引き上げが必要とされていた。しかし19年10月への消費増税延期となるとその可能性は事実上消滅。国際公約は達成できなくなる事が明らかになり、今後の経済運営に大きなリスクを残すことになった。


日銀年間80兆円の買上げで国債暴落は避けられているが


 現在、異次元の金融緩和策として日銀が年間80兆買入れているので直ちに国債の暴落という事態は避けられますが、いずれこの政策の出口がくる。それはインフレターゲット2%が達成される時ですが、国債金利も同様の水準に上がっており、国債価格は相当下がっていると考えられます。それは大量に国債保有する銀行経営や貸出しに大きなマイナスの影響を及ぼし、我が国経済に深刻な打撃を生じさせます。
 また国債の利払いも増加し、借金の利払いのためにさらに借金をするという事態が生じる可能性が高くなります。

 アベノミクスの問題は、金融政策や財政政策で時間を稼ぐ間に第3の矢である成長政策・構造改革ができていない事です。経済停滞の原因が労働人口の減少や経済基盤が確立せず、結婚や出産に踏みだせない若者にある以上、消費増税による財源確保を行いながら子ども・子育て対策や貧困対策などの社会保障を充実させ経済活性化を進めていく。これが現在、我が国が求められている政策ではないでしょうか。