鳥巣清典の時事コラム1609「首相 会見で消費税率引き上げ2年半再延期を表明」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1609「首相 会見で消費税率引き上げ2年半再延期を表明」

首相 会見で消費税率引き上げ2年半再延期を表明

安倍総理大臣は、国会の会期末に合わせて総理大臣官邸で記者会見し、「内需を腰折れさせかねない消費税率の引き上げは延期すべきだと判断した」と述べ、来年4月の消費税率の引き上げを、2019年、平成31年10月まで、2年半再延期する考えを表明しました。また、みずからの判断について国民の信を問うため、夏の参議院選挙では、自民・公明両党で改選となる121議席の過半数の61議席の獲得を目指す考えを示しました。

この中で、安倍総理大臣は「新興国や途上国の経済が落ち込んで、世界経済が大きなリスクに直面しており、こうした認識を伊勢志摩サミットで世界のリーダーたちと共有した。熊本地震の影響も含め、日本経済にとって新たな下振れリスクとなっており、最悪の場合、再びデフレの長いトンネルへと逆戻りするリスクがある」と述べました。そして「世界経済は想像を超えるスピードで変化し、不透明感を増している。リーマンショックのときに匹敵するレベルで、原油などの商品価格が下落し、さらに投資が落ち込んだことで、新興国や途上国の経済が大きく傷ついている」と述べました。
そのうえで、安倍総理大臣は「現在直面しているリスクは、リーマンショックのような金融不安とは全く異なるが、危機に陥ることを回避するため、内需を腰折れさせかねない消費税率の引き上げは延期すべきだと判断した」と述べ、来年4月の消費税率の引き上げを再延期する考えを表明しました。
そして、再延期する期間について「2020年度の財政健全化目標は堅持する。そのためギリギリのタイミングである2019年10月には消費税率を引き上げることとし、30か月延期することとする。その際に軽減税率を導入する」と述べました。
さらに「アベノミクス『三本の矢』をもう一度力いっぱい放つため、総合的かつ大胆な経済対策をこの秋講じる考えだ」と述べ、経済対策を盛り込んだ今年度の補正予算案を編成する考えを示しました。
また、消費税率の引き上げを前提とした社会保障の充実策を赤字国債によって行うことはできないとする一方、保育士や介護職員の処遇改善など「ニッポン一億総活躍プラン」に盛り込まれた施策は優先的に実施していく考えを示しました。そして、アベノミクスを加速することで税収を増やし、その成果を生かしながら、消費税率の引き上げを待たず、優先順位をつけて社会保障を充実させていく方針を示しました。
一方、「1年半前、衆議院を解散するにあたって、私は消費税率の10%への引き上げについて『再び延期することはない』とはっきりと断言した。今回の『再延期する』という私の判断は、これまでの約束とは異なる『新しい判断』であり、『公約違反ではないか』との批判があることも真摯(しんし)に受け止めている」と述べました。
そのうえで「『新しい判断』について、この参議院選挙を通して国民の信を問いたい。国民の信を問う以上、目指すのは連立与党で改選議席の過半数の獲得だ。アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのかがが、参議院選挙の最大の争点だ」と述べ、参議院選挙では、自民・公明両党で改選となる121議席の過半数の61議席の獲得を目指す考えを示しました。

引き上げ再延期 東京都内では

消費税率10%への引き上げを再延期することについて、東京都内で聞きました。
このうち、42歳の男性は「東京で働いているかぎりは経済は悪いとは思わないが、地方からはよくないという声を聞く。もし消費税率を引き上げると、消費が低迷してしまい、経済が鈍化すると思うので、現状から考えると延期は妥当だと思う」と話していました。
25歳の男性は「前回、消費税率が8%に上がった時影響が大きかった。また払う分が増えるので、金銭的にも余裕がないなかで上がるのは反対だ」と話していました。
一方で、25歳の女性は「消費税率が上がらないのはうれしいが、上がらなかったら、この先の税収がどうなるか心配です。これから先、私たちの世代が年金もらえるかわからないなかで、上げると決めたのであれば、上げたほうがいいと思う」と話していました。
58歳の女性は「選挙対策で先送りをしているだけのような気がする。将来のために上げるなら、上げておいたほうがいい。一方で、税金を上げた分はどこにいっているか分からないので、きちんと福祉に使ってほしい」と話していました。
47歳の男性は「消費税率を上げるなら、早く上げて、国家財政を立て直してほしい。無駄遣いはだめだが、保育所など、やらなければいけないところに財源を回すべきだと思う」と話していました。

被災地 熊本では

熊本地震の避難所の1つ、益城町の総合体育館で話を聞きました。
60代の男性は「消費税率が引き上げられずによかった。地震で被害を受けて、いろいろな物を買う必要があるので、税率が引き上げられると負担が大きくなる」と話していました。
60代の女性は「今後新しい生活が始まると、お茶碗1つ、お箸1つから買わないといけないので、税率が引き上げられると負担が大きくなる。延期はいいことだと思う」と話していました。

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消費増税再延期 国民が納得する説明を
西日本新聞

18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで、皆さんにはっきりと、そう断言します-。

 消費税率の10%引き上げの1年半延期を表明した2014年11月、安倍晋三首相は記者会見でこう語った。そして、その判断の是非を問うとして衆院を解散し、12月の衆院選で与党は圧勝した。

 それから約1年半。来年4月に実施されるはずだった10%への増税を今度は19年10月まで2年半先送りする方針を首相が決めた。あの「断言」は一体何だったのか。

 ▼アベノミクスの限界

 首相は前回の延期に際して、17年4月の増税を確実に実施するため、自らの名を冠した経済政策「アベノミクス」によって、「必ずや、その経済状況をつくりだす」と国民に約束した。

 では、アベノミクスの現状はどうか。大胆な金融緩和の恩恵は、大都市や大手企業には及んでいるのだろうが、地方や多くの国民は無縁のままだ。富が滴り落ちるように地方や中小企業も潤す「トリクルダウン」理論は、いまや絵空事との指摘さえある。

 厳しい経済状況にあえぐ国民には増税再延期を歓迎する声が強い。共同通信の世論調査によると、再延期への賛成は70・9%に及ぶ。景気の回復は遅れ、今は増税の時期ではない-多くの人がそんな実感を持っているからだろう。

 ましてや熊本地震の被災地は増税どころではない。そうした国民の生活実感に正面から向き合った判断だとすれば、再延期もやむを得ないかもしれない。

 であるなら、アベノミクスの失速と限界を首相は率直に認め、経済政策の見直しに取り組まねばならない。同じ調査では64・1%が「アベノミクスでは景気がよくなるとは思わない」と答えた。これもまた、国民の実感である。

 ▼ご都合主義の理由では

 ところが、アベノミクスの失速と前回の「公約」を守れなかったことを認めたくない首相は、事もあろうに、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の場で、唐突に「世界経済はリーマン・ショック前に似た危機に陥る大きなリスクに直面している」と言い出した。

 だから、G7はあらゆる政策を総動員する必要があり、消費税増税も再延期する-という論法である。首相としては「リーマン・ショックか大震災級の重大な事態が発生しない限り、予定通り税率を引き上げる」と繰り返した国会答弁との整合性に苦慮したのだろうが、ご都合主義ではないか。

 サミットでもドイツのメルケル首相や英国のキャメロン首相らが「今は危機とは言えない」などと反論した。国内外の経済専門家からも疑問が噴出している。

 取って付けたような再延期の理由では説得力を欠く。

 ▼財政再建の道筋は

 首相は「国民に直接説明したい」として、きょう再延期について記者会見する。ならば、首相には国民が納得できるように明快に説明してもらわねばならない。

 少子高齢化と財政難が同時進行する中で、消費税増税による増収分は全て社会保障の充実と安定化に充てることになっている。

 10%引き上げ時には充実策に1兆5千億円程度を回す予定だが、前回の延期でも低所得高齢者の介護保険料軽減が先送りになった。その結果、保険料が払えず資産が差し押さえられる高齢者が1万人を超える事態になっている。社会保障財源をどうするつもりか。

 首相は増税再延期でも、政策経費を借金に頼らない基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する財政健全化目標の20年度実現は堅持するという。

 名目国内総生産(GDP)が3%以上の高い成長で、予定通り消費税を増税してもプライマリーバランスは黒字化できないという内閣府の試算もある。国の借金が1千兆円を超す中で、財政再建の道筋をどう描くのか。首相が新「三本の矢」の目標に掲げる1億総活躍社会の財源はどこにあるのか。

 再延期の幅を2年半としたのはなぜか。18年12月の自民党総裁任期満了をにらみ、次期衆院選や19年夏の参院選を念頭に置いたとすれば、党利党略との批判は避けられまい。首相に問いただしたいことは山ほどある。


=2016/06/01付 西日本新聞朝刊=

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消費税率引き上げ再延期 影響はどこに?



来年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げを、2019年(平成31年)10月まで2年半再延期することで、社会保障費の財源確保や、財政健全化目標の達成への影響が懸念されています。

政府は、予定どおり消費税率を8%から10%に引き上げた場合、軽減税率の影響を除いて、今よりも年間5.6兆円程度税収が増えると見込んでいます。この使いみちはすでに決められており、このうちのおよそ3分の2は高齢化によって膨らみ続け、赤字国債で補っている医療や年金などの社会保障費の財源に充て、残りの3分の1は社会保障の充実などに充てることになっています。このため、引き上げの再延期で、社会保障費の財源不足が続くことになるほか、所得の低い高齢者や障害者に対する年額6万円の福祉的給付や、基礎年金の受給資格が得られる期間を25年から10年に短縮するなどの社会保障の充実策の財源確保が難しくなります。

また政府は、一億総活躍社会の実現に向けた工程表「ニッポン一億総活躍プラン」に盛り込む保育士や介護職員の処遇改善に必要な財源には、「アベノミクスの成果」として税収の増加分や歳出改革の成果などを活用するため、再延期の影響はないとしています。しかし、これらの新たな施策も、必要な恒久財源をどのように確保するのかは明確になっておらず、今後の調整に委ねられていて、影響が出ることも予想されます。

一方、政府は財政健全化目標として、国と地方を合わせた基礎的財政収支=プライマリーバランスの2020年度(平成32年度)までの黒字化を掲げており、中間目標として、再来年度(平成30年度)には赤字をGDP=国内総生産と比べて1%程度まで縮小するとしています。これについて、ことし1月の内閣府の試算では、中長期的に実質2%以上、名目3%以上の高い経済成長を達成し、消費税率を予定どおり来年4月に10%に引き上げた場合でも、再来年度は9.2兆円程度、GDPと比べて1.7%程度の赤字となり、2020年度には6.5兆円程度の赤字が生じるとしています。
引き上げ延期によって、目標の達成がこれまで以上に険しくなることから、日本の財政に対する国際市場の信認が低下し、比較的な安全な資産と見られている円や日本国債の急落、ひいては長期金利、マイホームローンなど国民生活に直結する金利の上昇を招くのではないかという懸念も出ています。