鳥巣清典の時事コラム1606「音を聴いてほんのわずかだけ遅れて踊ってあげるんです」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1606「音を聴いてほんのわずかだけ遅れて踊ってあげるんです」

 ひと月に1度、自主練習の日があります。
 この日は、自主練習を終えた後、4人で近くの喫茶店へ行きました。ダンス歴20年余で私たちサークルの新副会長でもあるH氏。ダンス歴8年で個人レッスンも受けているK子さん。そしてダンス歴3年のТО氏。私もダンス歴3年余なのですがーー手帳をめくって確認したところ2012年8月から社交ダンスを習い始め、現在のサークルに昨年7月に移って約11か月なのでーー
今度の7月末で丸4年。
 趣旨は、先輩の経験談を伺う事にありました。とくにH氏は、私が先日参加したパーティでは「リボンさん」として活躍。リボンさんとは、
 ダンスを踊る相手がいない女性と踊る男性のリーダ役、あるいはダンスアテンダントの呼称です。H氏はそのひとりだったのですが、私にとって忘れられないショットがありました。
 そのときワルツがかかっていたのですが、椅子に座っていた私の方に向かって、それはまるで波打ち際の波のようにやって来ました。そこで一斉にステップは止まり、スローオーバースエイーーまさにシャッターチャンス。



 でも私の関心は、そのスローオーバースエイに入る直前で見たリボンさんたちの表情でした。H氏をはじめ、皆さんの目が一様に似ている。前を見ているのだが、どこか見ていない。いったい、どこを見ているのだろう。ひょっとして・・?

 私はその時の疑問を喫茶店でH氏に聞きはじめたのでした。
「久しぶりのパーティで、私と同じくらいのキャリアの女性と踊ると”重い”。サークルで踊っている時とは違い、”なんと踊りにくいことか!”と思った。パーティも後半。私が疲れて椅子に座っていたら、目の前にH氏さんたちがワルツを踊りながらやって来た。すると見事にリードしている。先ほどまでぎこちなかった女性たちが、息を吹き返したように伸びやかに踊っている。”相手をする男性によって、これほどまでに女性の踊りが変わるのか!?”と思った」
 (ただし、”上級者”はパーティでは下級者のレベルに合わせて踊ってあげるのがマナーとの話も。相手が上級者に変わると突然本来の力を発揮し出すケースもあるのかもしれません))
 そして私は肝心の疑問点を聞く事にしました。
「でH氏さんらリボンさんの表情が印象的だった。前に進んでいるのに、全員が何か宙を見ているような目をしていた。あれはーー音を聴いているんですか?」
 私の推測を添えてみると、「そうです。音を聴いているんです」。

 そしてH氏は、驚くべき話をし出したのです。
「まだ分からないとは思いますが・・。ああいうパーティでは当然、初めての女性とも踊ります。重い人、軽い人。足幅の広い人、狭い人。実際の音楽のリズムより速い人、遅い人ーーもう様々な人がいます。鳥巣さんが見たというワルツでも同じです。リズムにぴったし合っている人はまずいません。そこで私たちは、ほんのちょっとだけ遅れて踊ってあげるんです。そうすると踊っている女性にしてみると、ちょうど良い感じなんですね。気持ちよく踊って頂ける。ほんの、ちょっとだけ、ゆっくり踊ってあげる。これがリードのコツなんです」
 私の場合は、リズムの正確性云々のレベルではない事は確か。踊りに神経を集中すると同時に、音に神経を集中するなんて、今の実力ではとてもとても。H氏はリズムの正確性を分かったうえで、さらに女性サービスとして”ほんのわずかだけ遅らせて踊る”ーーと。そうすることで余韻を感じさせるのかまでは聞きませんでしたが、そんな裏ワザを使っていた事におどろいたのは、男の私だけではありませんでした。K子さんが「そんなに女性に気を使ってるなんて素敵ね。素晴らしいわ」といたく感心。
 本日は、このH氏の話を聞けただけでも有意義でした。


 自主練習中には、前副会長のU氏。
「スローフォックス・ストロットでも踊って行く方向は決まっている。パーティとかでスローをその道順が分かって踊っている人はほとんどいない」
 U氏には、私がパーティで悩んだ課題ーーいかに初めての相手とベーシックで長い距離を踊るか、コーナーに来た時の曲がり方・他のカップルとぶつかりそうになった時の回避術ーーについて少しアドバイスを貰いました。これはこれで、かなりの練習が必要です。
 そして元指導員の経験からこんな裏話も。
「サークルでは、全体の平均に指導のポイントを置く。トップに照準を置くと落ちこぼれを作る。ビギナーに照準を置くとベテランに不満が募る。だから、真ん中を取るんです」

 K夫人からは、ルンバの指導。
「スポット・ターンLの時は、きちんと女性と相対して両掌で軽く押し合う。でもそこから次のステップに行くのではなく、その瞬間には男性は右足を前に伸ばし、女性は左足を前に伸ばし、回転するための準備をしておく」
 常に次のステップのための準備をしていくーーよくK先生が述べていることでもあります。でもK夫人の言う通りにやると、たしかに格段と格好よく回転できるようになった気がします。ベーシックでもーーというより、私の場合はベーシックだからこそーー見て改善の余地がある個所を指摘して貰うのは実にありがたい。パーティは、ベーシックが主ですから。


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PS①
 
 NHKEテレ『小澤征爾音楽塾』。題材はヨハン・シュトラウス2世作曲のオペレッタ「こうもり」--深い言葉が並びました。

「ヨハンシュトラウス2世作曲のオペレッタ「こうもり」」の画像検索結果
❶ 微妙な時間
ウインナーワルツ。その3拍子は独特でリズムの秘密は女性のスカート。1、2、3の2~3の間にふわりと巻きつくスカートの微妙な時間をつくる。「だから演奏する時も弦を弾いては駄目です。やや弓を弦に置いてから弾くんです」(元ウィーン国立歌劇場ヴァイオリン奏者)。「3拍が均等な長さを持たず、2拍目をやや早めにずらすように演奏される」と解説にはあったりしますが、
「”本当の所は、オーストリア人にしか分からない”と彼らは言うでしょうね」(小澤氏

❷行間を読む
「もちろん楽譜がいちばん大事なんです。例えばシュトラウスがこの楽譜を書いた時には、彼の耳の中にあるものを書いている訳です。だけども書ききれないものがある訳ね。芝居なんかで言葉だけでなく行間を読めというのがあるじゃないですか。アレなんですよ。行間を読まないと、読んで再現しないと、その行を書いた作者の本当の味は出ない」(小澤氏)

❸招待する音
「ヴィオラーー君は僕たちを何処へ招待しようとしているの? 君が招待してくれなくては。単につなぐだけでなく、君が主役で、どういう音が入って来たんだよという事を皆に聴かせる役目がある」

❹何を聴くか
「リッスン! リッスン! ーー『リッスン』とは、周りを聴くという事じゃない。色んな音がある。その中から、アレを聴けーーという事ですから難しいんです。色んな音の中に、何が大事な音かを聴く。リッスン、ワット? ワット・リッスンですね。何を聴くかという事が皆分からなくてはいけない」

❺自分が主役
「オーケストラの基本は、弦楽四重奏だと斉藤先生は言っていた。ヴァイオリンがひとり、セカンド・ヴァイオリン、ビオラ、チェロ。これで大体の音楽の音域は出来る。いちばん良くないのは、コンサートマスターがいて段々後ろに行く。それを前の人に合せろとーー昔はそういう事を言ったかもしれない。それも大事な時もあるらしいんですけど、それ駄目ですね。いろんな意見があって、ウィーンにしたってベルリンにしたってボストンにしてもシカゴにしてもパリにしても。皆が、ひとりひとりが室内楽をやっているつもり。自分が主役だと思ってやる。それが滅茶苦茶になる事もある。そのためにコントロールする指揮者がいるみたいなもので。それがないと、どんなにりっぱな指揮者が来ても駄目ですね」

❻経験
「いっぺん出来たら大丈夫。すごい経験になる」