鳥巣清典の時事コラム1598「パナマ文書 20万社超える法人や個人名を公表」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム1598「パナマ文書 20万社超える法人や個人名を公表」

 

パナマ文書 20万社超える法人や個人名を公表





 世界各国の首脳や富裕層の隠れた資産運用を明らかにした「パナマ文書」の問題で、各国の記者でつくる団体は日本時間の10日朝、文書に記載されていた20万社を超える法人や関わりがあるとされる個人の名前を公表しました。中には日本人とみられる名前もあり、専門家は租税回避地、いわゆるタックスヘイブンの利用の実態を明らかにする情報だと指摘しています。

 ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合は、日本時間の10日午前3時すぎ、パナマ文書に記載されていた法人や個人の名前をホームページで公表しました。
 パナマ文書は中米パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な内部情報で、今回の公表で、この法律事務所が去年までにタックスヘイブンとされる21の国や地域に設立したおよそ21万4000社の法人の情報が閲覧できるようになりました。
 ICIJは「秘密の法人とその背後にいる人々に関する史上最大の公表だ」としていて、中には日本にある企業や個人が設立に関わっているとされる法人の名前や、日本人とみられる関係者の名前も含まれています。
 パナマ文書は、先月はじめに初めて報道されて以来、各国の首脳やその関係者の隠れた資産運用の実態を次々と明らかにしていて、市民から厳しい批判を受けたアイスランドの首相やスペインの産業相が辞任に追い込まれています。
 
批判の背景には、経済の低迷などを理由に各国で市民の税の負担が増えていることがあるとされ、富裕層だけが税金から逃れることができる現状に疑問を投げかけるきっかけとなっています。
 税に詳しい青山学院大学の三木義一学長は、タックスヘイブンの利用の実態を明らかにする情報だと指摘したうえで「税金をそれなりに負担できる人たちが逃げてしまう。そういう社会でいいのかが問われていると思う」と話しています。

パナマ文書とは

ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合によりますと、パナマ文書は中米パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した、膨大な内部情報です。
この法律事務所が1977年から去年までのおよそ40年間で扱った会計書類や契約書などが含まれていて、データの量としては2.6テラバイトに上るとされています。この法律事務所は顧客にとって最も税金がかからない租税回避地、いわゆるタックスヘイブンの国や地域を選び、そこに法人などを設立するのを手助けしていたということで、文書の中には、タックスヘイブンとされる21の国や地域に設立されたおよそ21万4000社の法人と、200以上の国や地域の個人の名前がありました。
ICIJは、これらの法人や個人による資産の運用に違法性があるかについては一部を除いて、詳しく言及しておらず、文書の中に名前が記載されていても直ちに違法だとはいえないとしています。
しかし、タックスヘイブンに設けた法人を使えば隠れた資産運用ができ、代理人を立てて、法人の所有者の名前も隠すことができることから、不正な行為が行われている可能性があると指摘しています。
ICIJは、アメリカがテロや麻薬取引などに関わる犯罪組織との関連が疑われるとしてブラックリストに指定した少なくとも33の人物や団体の名前が含まれていたとしています。
また、各国の首脳やその親族との関わりも指摘していて、習近平国家主席の姉の夫をはじめ、中国共産党で序列5位の劉雲山政治局常務委員の親族、それに序列7位の張高麗副首相の親族が、それぞれイギリス領バージン諸島の法人の株主になっていたとしています。
ICIJによる各国の首脳や富裕層の隠れた資産運用を明らかにした一連の報道で、アイスランドの首相やスペインの産業相が辞任に追い込まれていて、各国の政治にも影響が出ています。また、ICIJは政治家やその親族だけでなく、富裕層がタックスヘイブンを利用して納める税金の額を低く抑えているのは大きな問題で、税金を正しく納めている市民を欺く行為だと批判しています。

専門家「みんなの目で監視が必要」

税に詳しい青山学院大学の三木義一学長は、公表された法人や個人の名前について「文書の中に名前が出てきたからといって、すぐに犯罪を行っていることを意味するわけではない」と述べ、租税回避地、いわゆるタックスヘイブンに法人を設立すること自体は、ただちに違法とは言えないと強調しました。
そのうえで、納める税金を低く抑えるためだけに設立された法人も少なくないのではないかと指摘し「税金を減らすためだけにこういう行動をやっているとすれば、税金をそれなりに負担できる人たちが負担せずに逃げていることになる。文書を通して私たちは、そういう社会でいいのですかと問われているのだと思う」と述べています。
そして、今回の公表について、タックスヘイブンの利用の実態を明らかにする情報だとしたうえで「公表されたことでタックスヘイブンの利用を規制する動きにつながるかどうかは、ひとえに市民の対応にかかっていると思う。特定の人たちがタックスヘイブンを利用して、きちんと納税していないのであれば、市民がそれを見てどうあるべきか議論し、それが起きないような社会的な雰囲気を作っていく必要がある。みんなの目で監視していくということが民主主義社会をきちんと成熟化させていくためには必要なことだと思う」と述べ、市民がこの問題に関心を持ち続けることが重要だとしています。
パナマ文書を巡っては、OECD=経済協力開発機構や世界銀行など4つの国際機関が課税逃れへの対応を強化するため、発展途上国での税制の整備などを連携して支援していく姿勢を示しているほか、ヨーロッパの金融監督当局などが捜査を始めていて、実態の解明に向けた動きが世界各地で広がっています。

中国でパナマ文書の問題伝える放送が中断

中国本土では、NHKが海外向けのテレビ放送「ワールドプレミアム」で、日本時間の10日午前7時すぎ、世界各国の首脳や富裕層の隠れた資産運用を明らかにした「パナマ文書」の問題について、中国共産党の新旧の最高指導部の親族が、いわゆるタックスヘイブンに法人を設立していたことが明らかになっていることなどを伝えた際、画面が真っ黒になり映像や音声が中断されました。また、中国当局がこの問題について厳しい情報統制をしいていることを伝えた際にも放送が中断されました。
中国当局が国内の報道だけでなく、海外メディアの報道についても神経をとがらせているものとみられます。

***********

PS
 毎日新聞は、以下のように報じています。

狭まる指導者・富裕層への課税包囲網

 中米パナマの法律事務所から流出した「パナマ文書」が、各国の首脳や著名人による租税回避地(タックスヘイブン)での不透明な資金取引を暴く調査報道につながり、世界を揺るがしている。アイスランド首相が辞任する事態に発展したほか、欧米各国の規制当局が、資金移動に関与した金融機関などに対する一斉調査に乗り出した。世界の指導者や富裕層にとって課税逃れや蓄財の「安全地帯」だったタックスヘイブン。その一端が明るみに出たことで、世界の課税包囲網が狭まることになりそうだ。

     パナマ文書は、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書。この事務所は1986年、ドイツ出身のユルゲン・モサック氏とパナマ出身のラモン・フォンセカ氏がそれぞれ経営していた法律事務所を統合してできたもので、米・英など世界三十数カ所に事務所を持つ。顧客の依頼により英領バージン諸島などタックスヘイブンに多数の企業を設立しており、世界4位の規模とされる。

     文書には、過去約40年間の金融取引が記され、計140人の政治家や公務員の名前が含まれていた。各国首脳をめぐっては英国のキャメロン首相の亡父やロシアのプーチン大統領の友人、中国の習近平国家主席や最高指導部の親族、アルゼンチンのマクリ大統領らが記され、民間人ではサッカーのメッシ選手、俳優のジャッキー・チェン氏らの名前が挙がっている。

     アイスランドのグンロイグソン首相は、タックスヘイブンに設立した会社を通じて自国の大手銀行の債券に投資していたとされ、国民の大規模なデモを受けて4月7日に辞任した。キャメロン首相はタックスヘイブンにある亡父のファンドに投資して利益を上げていたとされ、これまで課税逃れを厳しく追及してきただけに窮地に追い込まれている。習氏は政府幹部らの腐敗を厳しく取り締まってきただけにかなり神経質になり、国内の報道規制を強化して対応しているようだ。

     日本人では、租税回避地に法人を設立したとして約400人分の名前があったとされるが、政治家やその親族らは含まれていないという。

     発端は、ドイツの全国紙「南ドイツ新聞」で調査報道を担当するバスチアン・オベルマイヤー記者への情報提供。「私は『ジョン・ドウ』。データに興味はないか。犯罪を公にしたい」。1年以上前、英語で「名無し」を意味する匿名の人物からチャットによるメッセージを受け取ったという。

     暗号化されて送られてきたデータ量は最終的に2・6テラバイトに上る。メールだけで480万通以上、PDFなどの画像ファイルも300万点以上あるとされ、21万4000社の企業名が記されていたという。2010年に内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した米外交公電は1・7ギガバイト(テラはギガの1000倍)だから、その約1500倍に及ぶ。文書の件数でみると、ウィキリークスの公電25万件に対して1150万件あり、仮に1件をコピー用紙1枚とすると、積み重ねれば約1000メートルにも達する。このため「史上最大のリーク」といわれる。

     南ドイツ新聞の調査報道班は5人しかいないため、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と共同でデータを分析することにした。ICIJは97年、元米CBSテレビプロデューサーのチャールズ・ルイス氏が設立。ワシントンに拠点を置き、現在は世界約65カ国の記者約190人が加盟している。犯罪や汚職などが国境を超えるケースが増えている一方で、メディア単体で調査報道を担う余裕がなくなっているという現状を打開するため、各国記者のネットワーク化を目指しており、いわば「国境を超えた新たな調査報道」だ。

     76カ国の100を超えるメディアから記者約370人が参加した今回の調査報道を受けて、経済協力開発機構(OECD)は4月13日にパリの本部で開いた緊急会合で、情報共有の強化で一致した。また各国首脳や富裕層、大企業による国際的な課税逃れへの批判の高まりを受けて、各国の税務当局や金融監督当局は、タックスヘイブンへの規制強化策を発表している。

     特に欧州では、アイルランドやルクセンブルクが行き過ぎた税制優遇を提供し、米グーグルやスターバックスなどの多国籍企業の課税逃れを助けしてきたと批判されてきただけに、パナマ文書の問題には敏感だ。このため、欧州連合(EU)域内で事業を展開する多国籍企業に、各国で上げた利益や納税額などの公表を義務付ける新たな規制に着手していた。

     さらに、英金融行為監督機構(FCA)は国内の銀行に対し、モサック・フォンセカとの取引を報告するよう求め、スイスやフランスの規制当局もタックスヘイブンに絡む取引について銀行などの実態調査を始めた。さらにパナマの捜査当局がモサック・フォンセカを捜索、エルサルバドルやグアテマラなど中南米諸国でも捜査が開始され、アルゼンチンではマクリ大統領が捜査対象となった。

     こうした動きを受けて、パナマはOECDが主導する銀行口座情報共有の枠組みに参加する方針を決めた。この枠組みは17年に始まる予定で、すでに98カ国が参加の意思を示している。パナマのバレラ大統領は、財政や金融システムの透明性を高めていることをアピールする狙いとみられている。

     これまでにも同様の動きがあった。09年には、匿名性の高いプライベート・バンキングで世界の富裕層の資金を集めたスイスが姿勢の転換を強いられた。米国人の脱税を手助けしたとして米政府がスイス銀大手・UBSを提訴し、政府間の攻防を経て、スイスの銀行が長年掲げてきた顧客情報秘匿の見直しに追い込まれた。

     パナマ文書の調査報道とそれを受けた各国の取り組みにより、富裕層らへの国際的な課税包囲網が確実に狭まっているといえるだろう