財務省主計局インタビュー42「このままでは債券が発行できなくなる危険水域にある」
財務省主計局インタビュー⑧
国民金融資産1700兆円の伸びは株の動向が大きい
鳥巣
2010年当時1400兆円は増えないのではないかと言われてた。
財務省
そういうふうに記憶しています。平成21年(2009)、22年(2010)頃にはそろそろ逆転するのではないか・・と言っていたと思います。
鳥巣
専門家も限界が来るぞと言っていましたからね。5年前に「5年後には限界が来る」と言ってた。
財務省
危険水域にあるのは間違いないと思います。長期的なトレンドでいえば、ギャップは縮まっています
鳥巣
国民の金融資産が予想とは異なり伸びてきた原因は?
財務省
これはリーマン・ショック後で、家計で持っている株とかの価格などがいちばん落ちていたのが平成21年(2009年)。そこからーーもともとトレンドとしては回復しつつーーアベノミックスで上がってきたーーそれが答えだと思います。
【アベノミックス】
2012年12月に誕生した安倍晋三内閣の経済政策。2013年4月3日、4日には日本銀行金融政策決定会合で異次元の金融緩和が導入が決定された。
鳥巣
国民の金融資産がまだ伸びていく可能性もある。
財務省
株価がどうなるかにもよります。無限大に伸びていく事はあり得ませんが、今はちょっと小康状態。
鳥巣
株の動向による・・。
財務省
影響は大きいですよ。
大きかった海外の企業収益を国内に還流させた税改正
鳥巣
国債の消化を考える場合には、国民の金融資産だけではなく、フロー(経済で、一定期間内に流動する金・商品などの量)も大切になってくる。この国民の金融資産の中には、企業の内部留保は含まれていないんですよね。
財務省
そもそも日銀が出している数字なので、正確性について私どもが言うべきものではないのですがー含まれていません。
鳥巣
5年ほど前に税制改革が行われた。外国にある企業の子会社から内部留保を国内に還流させる。元大蔵省主計官の片山さつき議員なんかが音頭をとってやられた。著書『真実の議論』でも触れてある。
鳥巣
95%を無税にする。円安になったときに海外で日本企業が稼いだおカネを国内に入れていこう。これが企業の内部留保を加速させていった大きな原因なのかと私は思っていた。
財務省
円安?
鳥巣
当時は円高。円安にすれば外国から還流させるのに有利。(当時総理大臣の)菅 (直人)発言なんかがあって、私がそのときにある省庁の担当者に「こういう円安の時に海外から外貨を入れると良いですよね」と言ったら「入れていると思いますよ」とおっしゃったので。そういう阿吽の呼吸があるのかなとは思ってた。
鳥巣
つまり、そうやって外国から還流させたおカネの集積が、この「300兆円」なのかな・・と。そして当時財務省主計局のある担当者の考えのなかで印象的だったのは「これからは特に所得収支に力を入れていくべき」という点。
【所得収支】
海外から得た利子や配当(
財務省
所得収支に力を入れていく事は、ひとつの考え方としてアリかなと思われます。その通りだと思います。
鳥巣
企業の内部留保という資金余剰金も国債の償還に回せますよね。
財務省
家計の預金経由という事であれば、金融機関が持っている国債も広義の意味では含む事になりますが、このカウント上(=国民の金融資産)は直接は入っていない。原資として国債の償還に回っているというのはあります。
このままでは債券が発行できなくなる危険水域にある
鳥巣
ただ、財政問題は年々深刻化していると思っています。一般の国民は、ロジカルな事よりも「どうなるの?」という事が知りたい。
財務省
このまま行くと、債券が発行できなくなる可能性があります。債券が発行できなくなったら歳出額をそのままガポッと落とさなくてはいけなくなる。それが結果的にどうなるかというと、公共サービスの低下。あとは特例債とかに頼るとかになると、今の世代は何とかなるかもしれないけど、今後生まれてくる世代がその負担を付け回して受けていく事になります。
財政状況が悪くなればーー今は日銀との関係で特例的なのかもしれませんがーー金利は上がります。そうなると民間の調達コストも上がる。民間経済も不活性になります。