鳥巣清典の時事コラム1568「長期金利が初めてマイナスに」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」
長期金利が初めてマイナスに NHK2月10日
国債の市場では、世界経済の先行きに対する懸念からリスクを避けようと、買い注文が広がり、長期金利の代表的な指標になっている、満期が来るまでの期間が10年の国債の利回りが初めて0%を下回り、マイナスの金利をつけました。
9日の国債の市場では、取り引き開始直後から買い注文が広がりました。国債が値上がりすると金利は下がる関係にあり、長期金利の代表的な指標になっている満期までの期間が10年の国債の利回りは、一時、マイナス0.035%まで低下しました。
長期金利は、その後、0%に戻ることもありましたが結局、マイナス0.025%で9日の取り引きを終えました。
長期金利が0%を割り込んでマイナスとなるのは国内では初めてです。
これは投資家の間で、今後も国債の値上がりが続くという見方が出ているためで、背景には、日銀が金融機関から預かっている当座預金の一部の資金にマイナス金利を導入すると決めたことがあるうえ、ここに来て世界経済の先行きへの懸念が強まっていることもあります。
市場関係者は、「世界経済を引っ張ってきたアメリカ経済への懸念が広がっているため、投資家がリスクを避けるならば、株式などより、さらにもうけが出そうな国債に資金を移す動きが一段と強まった」と話しています。ディーリングルーム 静まり返る
長期金利の代表的な指標になっている、満期までの期間が10年の国債の利回りが初めてマイナスとなったことを受けて銀行のディーリングルームでは担当者が対応に追われました。
このうち、三井住友信託銀行では、長期金利が初めて0%を割り込んでマイナスとなった瞬間、部屋全体が静まり返りました。その後は、国債の売買を仲介する担当者のもとに取引先からの問い合わせが相次いで寄せられ、慌ただしい空気に包まれました。
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、長期金利がマイナスになった背景について「世界経済の失速への警戒感が非常に強く、投資家がリスクを避けようとする流れが東京市場にも押し寄せた。今、日本国内は運用難でお金を持っていく先が少なく、やむを得ずマイナス金利でもリスクの小さい資産にお金を配分しなければいけない投資家が国債を買っている」と指摘します。
そのうえで、今後の見通しについては、「日銀がさらに金利のマイナス幅を拡大する可能性もまだ十分残っているので、そういう期待があるうちは金利がプラス方向に大きく戻る可能性は低いのではないか」と話しています。
一方、生活への影響については、「住宅ローン金利はすでに低下が顕著になっていて、ローンを組む人にはプラスということになる。マイナス面では、預金金利はゼロに近い状態が続いていくということや、生命保険や年金の運用が厳しくなるので、将来、何かのときのための保険とか、老後の年金の受け取りに影響が出てくることが考えられる」と話しています。
長期金利がマイナスになるとは
国債の利回りがマイナスになる仕組みについて詳しく説明します。
話をわかりやすくするため、満期までの期間が1年の国債で考えてみます。
たとえば額面の価格が100円で、年1円の利子がつく国債があったとします。この国債の利回りは年1%で、1年間、持ち続けると1円もらえ、最終的に101円が手に入ることになります。
この国債の人気が高まって買う人が増えれば国債の市場での価格は値上がりします。仮にこの国債の市場での価格が105円まで値上がりしたとします。
投資家がこの国債を105円で買い、満期まで1年間保有した場合、得られるのは、1年間の利子1円と、額面の100円、合わせて101円です。
105円投資したのに合わせて101円しか得られず、4円の損失が出る計算です。つまり投資に対して損失が出て利回りがマイナスになります。これが国債の利回りがマイナスになるということです。
満期までの期間がより長い国債の場合も、基本的にはこの仕組みとほぼ同じだと考えてください。
ただ、国債を個人で買って持っている人は満期まで保有していれば金利がマイナスになることはありません。一方、損失が出るのに国債をさらに買う投資家がいるのは、国債の価格がさらに上がれば、高値で売って利益を得られると考える投資家がいるからです。
長期金利がマイナスになったことで、世の中の金利は全般的に一段と下がると見られますが、ただちに預金の金利がマイナスになったり融資の金利がマイナスになるわけではありません。
長期金利マイナスの影響
長期金利の代表的な指標とされる満期までの期間が10年の国債の利回りは、企業が設備投資のための資金を銀行から借りる際の金利や住宅ローンなどの金利に大きな影響を及ぼします。
銀行は、日銀がマイナス金利の導入を決めたことをきっかけに長期金利など金利全般が急低下したことからすでに定期預金や住宅ローンの金利を相次いで引き下げています。
このうち、大手銀行の「三菱東京UFJ銀行」「三井住友銀行」とそれに「みずほ銀行」は今週から満期まで2年から10年までの定期預金の金利をそれぞれ引き下げました。
また「ゆうちょ銀行」も9日から「通常貯金」や「定額貯金」などの金利を引き下げています。
一方、インターネット専業の「ソニー銀行」は普通預金の金利を0.001%まで引き下げました。0.001%の金利では100万円を1年間預けても10円しか利息がつかない計算です。
一方、住宅ローンの固定金利は満期までの期間が10年の国債の利回りが指標となっていて、このところの金利の低下を受けて大手銀行は、すでに、2月から、10年間、固定金利を適用する住宅ローンの金利を過去最低に引き下げました。今後については、長期金利の水準を見ながらさらに金利を引き下げるかどうか検討することにしています。
また、「みずほ銀行」は、大企業向けの融資の基準となる金利「長期プライムレート」を10日から過去最低となる1%に引き下げると発表し、個人だけではなく企業に対する金利の低下も広がることが予想されます。
今回、長期金利がマイナスになったことで、世の中の金利は全般的に一段と下がることが見込まれますが、預金金利や住宅ローン金利がただちにマイナスになるわけではありません。
日銀の黒田総裁は、4日の衆議院予算委員会で「銀行の個人向けの預金にマイナスの金利がつくことはない」と述べています。
各大手銀行も、現時点で、預金金利や住宅ローン金利をマイナスにすることはないとしています。長期金利がマイナスになったことで今後、個人の資産運用などにさまざまな影響が広がる可能性があります。
日商会頭「マイナス金利政策はわかりにくい」
日本商工会議所の三村会頭は記者会見で、円高ドル安が進み、長期金利が0%を下回ってマイナスとなったことについて、「日銀が導入を決めたマイナス金利政策による影響がまだはっきりしていないことも市場が混乱している要因ではないか。マイナス金利政策は日本にとって初めてでわかりにくいため、日銀としてねらいや意図を明快に説明してもらいたい。また、マイナス金利政策の導入によって多くの中小企業が資金を借り入れている信用金庫や地方銀行への経営にどういう影響を与えるのか懸念している」と述べました。
大手酒類メーカー、「アサヒグループホールディングス」の奥田好秀常務は、9日の決算発表の会見で、「長期金利の低下が長引く状況とみていて、当社にとっては資金調達で有利になる可能性がある」と述べました。
また、円高と株価の下落については「日銀は、マイナス金利で円高を阻止するという強固な意志を表明したが、残念ながら市場の見方は日本やアメリカの経済に従来ほど強さが見られないということだろう。当社としてはきちんと原材料を調達し、商品を提供していきたい」と述べました。
ヨーロッパでもマイナス金利相次ぐ
ヨーロッパでは、ユーロ圏やスイス、デンマーク、それにスウェーデンですでにマイナス金利が導入されていて債券市場では、各国の国債の利回りが低下しています。
このうち、スイスでは、償還までの期間が10年の国債の利回りがマイナスになっています。
また、ドイツやフランス、それにフィンランドなど、ユーロ圏各国でも償還期間の短い国債を中心に利回りがマイナスになっていて、今では、ユーロ圏の国債の3分の1近くがマイナス金利となっています。
ヨーロッパ中央銀行は、マイナス金利の幅が大きな国債を、量的緩和の買い入れ対象にしていません。
このためマイナス金利の国債が増えれば、量的緩和の制約につながるのではないかという見方も出ています。
一方金融機関の間からは、中央銀行にお金を預けるといわば手数料を取られることになるため、収益が圧迫されるという懸念が出ています。
このうち、スイスでは、預金者に負担を求めるとして、先月から預金金利をマイナスにする銀行が現れたほか、住宅ローンについても金融機関にかかるコスト負担を借り手に転嫁しようと金利を引き上げるところがでてきています。
一方、デンマークでは、市場に合わせて変動するタイプの住宅ローンの金利をマイナスにするところも出てきています。
これは、借り手の金利負担を金融機関が肩代わりすることになり、金融機関の負担が増すことになるほか、金利の低下が住宅価格の上昇も招いていて、バブルの懸念も出始めています。