鳥巣清典の時事コラム664「日銀総裁、自民党の安倍総裁に『日銀の独立性を尊重して欲しい』
日本銀行の白川方明総裁は、本日の記者会見で、自民党の安倍総裁に対して「日銀の独立性を尊重して欲しい」と訴えた。
以下、夜7時のNHKニュース。
「衆議院選挙では、デフレからの脱却に向け、金融緩和と日銀の役割も論点のひとつです。自民党の安倍総裁は、日銀に大胆な金融緩和を求める考えを示しています。
<安倍総裁=『2%、3%、インフレターゲットをしっかり設定して。それまでには、日銀がまさに無制限で金融緩和を行っていく』>
また、国債について。
<安倍総裁=『公共投資をやっていく。国債を発行しますが、建設国債。これは、できれば日銀に全部買い取って貰う事によって、新しいマネーが強制的に市場に出てゆきます。景気には、良い影響がある』>
「建設国債を日銀が引き受ける事を検討する考えを示しました。この考え、野田総理大臣は、批判しました」
<野田総理=「日銀に国債を直接引き受けさせるというやり方は、これは禁じ手だと思います。建設国債をどんどん発行して、公共事業をばら撒こうというその前提ではありませんか? 建設国債も赤字国債も、借金である事には変わりません。それに頼って、それをしかも日銀に引き受けさせるというやり方は、私は経済政策として間違っていると思います」>
「公明党からは」
<公明党も山口代表=「赤字国債を日銀がいたずらに引き受けるという事は、慎むべきだと思います。建設国債は、それとは性格がやや違うわけであります。しかし、やはり国債でありますから。そこは一定のルールが必要である」>
「では日銀は、どう考えているのか。白川総裁は、”一般論”と断ったうえで、政府から直接国債を買い入れる事に強い懸念を示しました」
<日本銀行の白川総裁=「国債の引き受け、あるいは引き受け類似の行為を行っていきますと、これは通貨の発行に歯止めが効かなくなってしまう。様々な問題が生じるという、これが内外の歴史の教訓を踏まえたものである」>
「日銀が当面の目標として掲げる、物価の目標を3%に引き上げる事は、”現実的でない”としたうえで、”経済全体に悪影響が及ぶ”という認識を示しました。そして・・」
<白川・日銀総裁=「金融政策を適切に行うべく、最大限の努力をすると同時に、中央銀行の独立性というものを是非尊重して頂きたい」>
「そして先ほど、自民党の安倍総裁は」
<安倍・自民党総裁=「野田さんも、ずっとデフレ、そして円高の是正ができなかった。今こそ、必要な金融政策を考えていくのが、私たちの一番の責任ではないのかなとそう思うわけでございます。われわれは、御託を述べるわけではなくて、しっかりと結果を出していきたい」>
【鳥巣注】
案の上ではあるが、白川日銀総裁としては、毅然として受けて立った感がある。さあ、次期総理の可能性が大きい安倍自民党総裁としては、どう判断するのか。もっとも私は、双方がガチンコで対立するとは考えていない。以下の白川日銀総裁の寄稿文を読めば分かるように、「歳出・歳入両面の改革」を進め、税収を生み出す経済成長力を強化することを重要視している。最終的には、目標は同じであり、お互いの顔が立つように方法論を調整する事になるのだろう。
財務省主計局と話しをしてきていると、彼らの調整能力には一定の安心感がある。もっとも、安倍総裁のほうが、財務省に対してはどういう感情を持っているのかが気にかかる。日銀、財務省、自民党、同じ土俵のなかのはずなのだが・・。違和感があるのは、安倍総裁の背後に髙橋教授の影響をどうしても感じるからであろう。
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PS①
白川総裁は、日本の財政問題について、以下のような寄稿文を書いている。
【寄稿文】
財政の持続可能性 ― 金融システムと物価の安定の前提条件 ―
フランス銀行「Financial Stability Review」(2012年4月号)掲載論文の邦訳
日本銀行総裁 白川 方明
2012年4月21日
(前略)近年における政府債務の累増は、バブルの崩壊や高齢化などによる成長トレンドの低下によってもたらされている面が大きい。実際、多くの先進国で総人口一人当たりの経済成長率が低下してきており、この事実と政府債務の累増が無関係とは考えにくい。一般に成長トレンドの変化に対する政策当局者の認識は遅れるうえ、高い成長率を前提としていったん確立された財政構造を、低成長と整合的な財政構造へ改革していくことには痛みが伴うからである
そうした問題の典型的な発現経路は、国債のデフォルト懸念による金融システムの不安定化である。その際、財政健全化によって政府のソルベンシーを回復できる見通しが立たない場合、金融システムの安定と物価の安定を同時に達成することは難しくなる。また、そのことが事前に予想されると、政府債務が累増する過程でインフレ圧力が高まる可能性もある。逆に、成長期待が弱い中での増税懸念は、デフレ圧力につながる可能性もある。標準的な経済理論では、物価の安定は中央銀行が適切に金融政策を行うことで達成可能とされているが、本稿で述べた様々な論点を踏まえれば、政府債務の累増は、中央銀行の独立性や情勢判断能力が確保されていても、中長期的な物価安定を損なう可能性を高める。
以上のように、政府債務の累増は、中長期的なマクロ経済の安定性にとってきわめて大きな撹乱要因となりうるが、政府債務の持続可能性に対する金融市場からの警告は、危機直前まで発せられない可能性もある。欧州では、ユーロ発足以降今次危機に直面するまでの間、ギリシャなどの周縁国の長期金利がドイツの金利とほぼ同じ低水準で推移していたが、財政の持続可能性に対する信認が崩れると、金利は非連続的に上昇した。市場から催促された時点では対応がきわめて難しくなってしまっている可能性を踏まえると、なるべく早い段階で政府債務の累増に歯止めをかける必要がある。すなわち、国債に対する市場の信認が維持されているうちに、歳出・歳入両面の改革をしっかり進めるとともに、税収を生み出す経済成長力そのものを強化していかねばならない。
この20年程度の間に、独立性と透明性の高い金融政策が世界標準となり、中央銀行は2007年までの期間において、比較的良好なトラック・レコードを積み重ねてきた。しかし、中央銀行の独立性と透明性は、物価の安定と金融システムの安定を両立させ続けていくための必要条件ではあるが、十分条件ではない。経済成長力を強化しながら政府債務の累増に歯止めをかけ、財政の持続可能性に対する揺るぎない信頼を回復することは、現在多くの先進国が直面しているマクロ経済政策上の最も重要な課題である。