鳥巣清典の時事コラム567「江田憲司・みんなの党幹事長の説得力」
月刊誌『Voice』の総力特集「財務省に騙された日本」には、江田憲司・みんなの党幹事長も論を張っている。
前回紹介した柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長とは、顕著な違いがある。
違いを整理しておこう。
柳井氏は「整備新幹線や国土強靭化などのバラマキを続けていれば、この国は最悪3年で財政破綻する」と述べる。
一方江田氏は、「財政破綻は、あり得ない」と一蹴する。
「財務省が『国の借金は1000兆円でGDP(国内総生産)の2倍。放置すれば国債が暴落し、金利が上昇して日本の財政は破綻する』『一般歳出は約90兆円なのに、税収は40兆円そこそこで、年間44兆円も借金している。これで財政がもつはずがない』という論理を『何とかの二つ覚え』のように言い張り、『だから増税が必要だ』と主張する。(中略)しかし日本は、国債の95%は日本国民が買っているため、このようなことは起こりえない」。
続けて、
「(財務省は、海外向けには)海外純資産は175兆円、外貨準備は50兆円、経常黒字は14兆円、個人の金融資産は1411兆円でいずれも世界最高として、日本は『強固なファンダメンタルズ』を有し、何ら問題ないと結論づけている。
この数値は、2010年末の時点では、それぞれ252兆円、100兆円、17兆円、1488兆円で、状況は当時よりもよくなっているのだ。それなのに国内に向けては『日本の財政はたいへんだ』と危機感を煽っているのだから、これは財務省の完全な『二枚舌』というほかない」
このあたりは、”顧問”の高橋洋一氏とニュアンスが似てくる。
そして、こう述べる。
「もちろん、膨らみ続ける借金を放置していいわけはない。(中略)方向性としては、『ムダ遣いやバラマキを廃し、税収を高める努力をすべき』であろう」とまとめている。
「現在の経済学では、『マンデル・フレミング効果』が常識となっている。変動相場制のもとでは、公共事業のために財政支出を行っても、金利の上昇→円高→輸出減が起こり、その効果が吸収されるというものだ。つまり公共事業は、ほとんど景気浮揚に寄与しないのである」
と解説、
さらに、
「われわれ『みんなの党』は、公共事業を全否定するつもりはない。老朽化した施設の耐震補強や、東日本大震災からの復旧・復興は当然、行わなければならない。だが、現在の状況下での消費増税・公共事業拡大を行えば、財政再建どころか、間違いなく日本経済の悪化に拍車をかけることになる」。
柳井氏も江田氏も、公共事業には否定的なのだが、少なくとも江田氏の結論は、「ほどほどに」という事になるのだろうか。
今回は、「(ムダ遣いやバラマキを廃し、)税収を高める努力をすべき」の具体的な中身には触れてはいない。むしろ、「財務省に”マインド・コントロール”された政権の悲劇」に力点が置かれている。
【鳥巣注】
この国には最近、「財務省」VS「反財務省」の構図が目立つ。
ひとつには、「財政の本当の姿」というものが、一般国民にも見えにくいからであろう。先日も、商店街のおばちゃんは「そもそも、何のために”増税、増税”て言うの?」と首をかしげていた。何か匂うのかもしれない。
私がインタビューした佐藤主光(もとひろ)・一橋大学院教授は、こう述べていた。
佐藤 財務省も難しい立場にあって。国民に向かって、危機感を煽らないと財政再建に同意してくれないし。かといって危機感を煽りすぎると、今度はマーケットが信用してくれなくなる。矛盾したことは言ってるんですよ。国民には「危ない危ない」と言っといて、マーケットには「大丈夫。大丈夫」。彼らは、完全に二股状態です。
鳥巣 だから、僕も一時はどっちが本当なんだと。
佐藤 いや、どっちも本当なんです。だって、そうせざるを得ないから。
いや、実際、難しい話です。
というのは、日本の財政問題は、柳井氏や江田氏のような文脈では語れない側面を持っている。
佐藤・一橋大学院教授は、私とのインタビューで”真相”を述べています。
佐藤 デフレが赤字を生み出したんですね。もちろん。税収が落ち込んだし。景気対策しなきゃいけなかった。そのためにデフレが赤字を生み出した。それは事実なんです。そしてデフレだから、この赤字が支えられているという現状。なんですね。デフレのおかげで金利が下がっている。
鳥巣 うん。
佐藤 金利が下がっているというか。もう企業の生産性が、だーっと落ちちゃった。投資先がないので、企業までが貯金している、この有様ですからね。その代わり余剰資金が生まれた。金利が下がった訳だし。政府はそれで安心して借り換えができちゃう訳です。
鳥巣 貯蓄率が、ちょっと上がったみたいですねえ。「これで大丈夫」とか言っていますけど(苦笑)。
佐藤 皮肉なんですけど。いま逆に財政赤字は、デフレによって支えられている部分は否定できない。でも、デフレだから財政赤字が膨らんでいるという側面もある。お互い様なんですね。もしこのまま、何らかのきっかけで景気が良くなったとしますよね。その時は、意外と危なくて(苦笑)。金利が、ふっと上がっちゃいますんで。本来は、生産性が上がって。ま、お金を借りようとして。設備投資しようと思って。資金需要が増えた訳だから。これは良い金利の上昇なんだけど。この今の借金を前提とした財政赤字を前提とした時にはですよ。これは財政的には、非常に死活問題になっちゃうんですよね。だから、よく「景気が良くなってから財政再建すればいい」て言うんですけど。これは多分、アウト!なんですね。本当に景気が良くなったら、多分財政は破綻するから。金利が上がっちゃって(苦笑)。ま、それ以前に、景気は良くならないですけどね。そういう状況を見越されていれば。
いや、だからなんですけど、日本にとってすごい辛いんですけど。不況の中で財政再建するしかない。と思ったほうがいいです。
以上のようなロジックに挑んでいる『日本のソブリンリスク』という本の読者感想にも以下のような意見がありました。
「景気が悪い状況が続き、デフレが続く限りは、銀行に対する貸出需要が少なく、銀行は国債を買い入れるしかなく、国債の消化には問題が生じないのが理由です。万一、景気が良くなることがあれば、国債の消化ができず国債のデフォルトかハイパーインフレへの道となります。日本の財務官僚は必至で増税しようとしていますが、私は、これは財政建直しよりも、増税することで景気の回復の芽をつぶそうとしているのではないかと思います。現在の財政状況では消費税10%などの少々の増税では焼け石の水であるのに、あれだけ増税にこだわるのは景気悪化あるいは景気回復つぶしが本当の目的ではと思い当たりました。」
まあ、今の日本は、「なでしこジャパン」ではないですが、どんなに泥臭くても、あきらめない粘りで戦うのがベスト、と言えるのではないでしょうか。
「みなさん、不況の中(維持しながら)で財政再建していきましょう」
政党や政治家としては、言いづらいことかもしれません。
2年前、渡辺喜美・みんなの党代表は、「日銀・財務省は、デフレ・ターゲットを行っている」と激昂していました。みんなの党は「インフレ・ターゲット」を進めたがっていたので当然でしょう。しかし、実際は「デフレでなければ、日本の財政はもたない」というのが実体でした。あとは、国民はデフレ下で生き延びる覚悟を決めるほかありません。かつ、日銀や財務省には、深刻なデフレ・スパイラルに陥らないようにコントロールをして貰うことです。
そして、「成熟社会(「低成長」とか「不況」とか「デフレ」とか呼ばず)」の在り方を模索していく。そのほうが、スッキリするのではないだろうか。
ちなみに、「成熟社会」とは、「量的拡大のみを追求する経済成長が終息に向かう中で、精神的豊かさや生活の質の向上を重視する、平和で自由な社会。〔イギリスの物理学者ガボール(Dennis Gabor 1900-1979)の同名の著書から〕」(大辞林)となる。
浜矩子(のりこ)氏は、「豊かさのなかの貧困問題に照準を合わせ、包摂性の高い、懐の深い社会を目指すべきときにきているのです(中略)成熟社会における行政の役割、都市と地方の格差、教育のありかた、企業の社会的責任・・などなど、『豊かさをどう分配するか』というところを軸に、問題意識を持てば、おのずと『解』も出てくるはずです。」と定義していた。
本格的に議論してみる時に来ているのではないだろうか。
ちなみに、「生涯学習」というところに足を踏み入れて分かったのだが、生活さえ保障されていれば、多くの高齢者が趣味を満喫している。それこそ社交ダンスや俳句の会などで「精神的豊かさ」を経験できていることが分かる。
仮に格差がつかず、日本人が等しく生涯学習のようなライフスタイルを楽しむことができれば、ユートピアに近い社会が誕生するのではないだろうか。それは、かつてのバブルのような狂騒曲ふうのものではなく、地味だけれど教養や心の絆を、爽やかさや和(なご)みのある空気の中で味わえるのだ。
それは、受験時代や仕事における”競争原理”とは違う世界だ。ハーモニーの世界となる。
まさに、「量から質への転換」。