財務省債務管理レポート「普通国債債務残高668兆円への道のり」
省庁のHPが今年3月にリニューアルされ、以前に比べれば情報も豊富になり、見栄えも良くなりました。
みなさんも、大いに活用してください。
財務省の『債務管理レポート』には、「国債発行の推移」が図表で載っています。
この図表を使い、我が国の借金の歴史を振り返ってみましょう。
同じ図表を使い、2つのことを証明します。
第一部に出てくる国債は、”国債新規財源債”として「4条債(建設国債)」「特例債(赤字国債)」のほかに「借換債」「財投債」が含まれています。
うち、「普通国債債務残高」として計上されているのは、「4条債」「特例債」の2つだけです。
ここでは、ざっと国債の歴史や種類・目的の理解を深めて頂きます。
第二部では、国債の種類を「普通国債」、すなわち「4条債(建設国債)」と「特例債(赤字国債)」に絞り、現在私たちが聞かされている「普通国債債務残高」の推移を背景説明を入れながら見ていきます。
24年間にわたり2種類の国債を発行。累積した債務総額「730兆」への道も2000億円足らずからスタートしています。
実際は、償還分もあり「668兆円」が平成23年度末の債務総額見込みになります。
(*ただし、「国と地方を合わせた長期債務残高」とは違います。念のため)
「●第一部・国債発行の推移に歴史あり」
(1)国債発行額等の推移
(「4条債」+「特例債」+「借換債」+「財投債」)
(単位:億円)
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昭和22~39年
収支均衡予算 国債発行せず
================================
年度/国債発行額
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40 1,972
41 6,656
42 7,094
43 4,621
44 4,126
45 3,472
46 11,871
47 19,500
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【鳥巣注】
昭和40年(1965)に戦後の国債発行がスタート。
1972億円にはじまり、昭和47年(1972)には1兆9500億円と10倍に膨らんでいます。
国債残高は5兆8186億円。
「国債」の種類も、初年度の昭和40年の「4条債(建設国債)」を省いては、以降「新規財源債(4条債=建設国債)」といわれるもののみでした。
昭和48年(1973)から、「借換債」が加わります。
昭和50年(1975)から、「新規財源債(特例債=赤字国債)」も加わり3種類になります。
ちなみに、
「4条債」というのは、「建設国債」と言われるもので道路など公共事業の資金購入のために発行する国債。
「特例債」は「赤字国債」と言われ、税収不足の穴埋めのために発行する国債のことです。
「借換債」は、借金の償還期がきたものを借り換えるために発行する国債になります。
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48 23,620
49 27,958
50 56,961
51 75,694
52 98,741
53 113,066
54 134,720
55 144,605
56 137,951
57 173,175
58 180,009
59 181,417
60 212,653
61 227,435
62 248,672
63 210,986
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【鳥巣注】
昭和53年(1978)から年間発行額が10兆円を超えました。
昭和60年(1985)からは年間20兆円を超える発行額になっています。
昭和63年度の時点で国債残高は156兆7803億円。
対GDP比40・5パーセント。
昭和が終わりました。
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元 217,183
2 259,652
3 256,057
4 310,329
5 379,869
6 393,717
7 466,238
8 483,007
9 498,900
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【鳥巣注】
平成元年(1988)年間発行額が21兆円だったのが、平成5年(1992)から平成9年(1996)の期間は、すごい勢いで伸びています。
38兆、40兆、47兆、48兆、50兆という具合です。
この5年間だけで200兆円を超えています。
92年”バブル崩壊”以降の税収不足などの影響が大きかったのが一目瞭然です。
それでも平成10年(1997)からの発行額はレベルが違います。
平成10年は「GDPが伸びなくなった年」と言われます。
平成13年(2000)からは、特別会計で財投債の発行がスタート。
44兆、32兆、29兆、26兆、26兆、25兆と平成18年まで20兆円を超える財投債が発行されました。
「財投債」とは、地方公共団体や独立行政法人に対して貸し付けるために発行する国債です。
財務省財投債統括課が答えます。
「平成13年に財投改革が行われました。それまでは郵便貯金などを原資として使っていたのですが、”規模が大き過ぎて運用が非効率”という批判を受けました。効率の良い運用を行うために独自に資金を調達するようになったんです。
貸付額は、批判を浴びる少し前の平成11~12年頃は400兆円を超えていました。現在は、平成22年度で196・7兆円。ピーク時の半分。年間平均10兆円以上は戻ってきていると思います。ただし、財投債を発行して得た資金なので、戻って来るおカネは借金の返済に充てることになっていて、いわゆる埋蔵金にはなりません。
長期の債務残高の中にも入っていません」
また「借換債」が「国債費」の中に占める割合が著しく拡大しています。
平成元年は年間15兆円だったのが、平成5年には20兆、平成9年には30兆、平成10年には40兆、平成12年には50兆、平成14年には60兆、平成15年には70兆、平成16年には80兆、平成17年には100兆の大台に乗り、平成22年では103兆円。
財務省理財局国債企画課が答えます。
「借換債が膨らんでいるのは、満期を迎えた4条債(建設国債)と特例債(赤字国債)分を償還するためのものです。長期債務残高の中にはカウントされません。」
以下の数字を見て頂ければ分かるように、平成22年で162兆円。
毎年、満期を迎えた償還分を借り換えるだけでも巨額です。
とは言っても、
「現金で返しているのは、借り換えが100兆円ならうち10兆円を一般会計から毎年払っています。60年償還ルールですから、長期間にわたって少しずつ返済していくわけです」
借り換えが出来ていますから、借金総額や満期償還のための借り換え額が巨額でも現金で返済のために支払うのは10兆円程度と言うことになります。
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10 764,310
11 775,979
12 862,737
13 1,332,127
14 1,364,271
15 1,388,025
16 1,600,702
17 1,650,379
18 1,611,502
19 167,696
20 1,356,775
21 1,584,049
22 1,624,139
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【鳥巣注】 以上は、毎年の「4条債(建設国債)」「特例債(赤字国債)」「借換債」「財投債」の発行額を足し合わせた単年度ごとの数字です。念のため。
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「●第二部・普通国債債務残高730兆円までの道のり」
次に「長期国債債務残高」にカウントされているうち、”普通国債”と呼ばれる「4条債(建設国債)」「特例債(赤字国債)」の2つのみを抜き出してみましょう。
(2)普通国債発行額等の推移(「4条債+「特例債」)
(単位:億円)
================================
昭和22~39年
収支均衡予算 国債発行せず
================================
年度/国債発行額
4条債(建設国債)/特例債(赤字国債)
40 - 1,972
41 6,656 -
42 7,094 -
43 4,621 -
44 4,126 -
45 3,472 -
46 11,871 -
47 19,500 -
48 17,662 -
49 21,600 -
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【鳥巣注】
国債発行スタートした昭和40年(1965)。
最初の年は「特例債(赤字国債)」からスタートしています。
東京オリンピック開催の翌年で、税収不足を補うためでした。
翌昭和41年からは逆に「4条債(建設国債)」のみの発行となり、昭和49年(1974)まで続きます。
ちなみに、ここまでで「4条債(建設国債)」は計9兆6602億円。
以下、昭和50年(1975)から「特例債(赤字国債)」が再び復活して加わります。
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4条債(建設国債)/特例債(赤字国債)
50 31,900 20,905
51 37,250 34,732
52 50,280 45,333
53 63,300 43,440
54 71,330 63,390
55 69,550 72,152
56 70,399 58,600
57 70,360 70,087
58 68,099 66,765
59 64,099 63,714
60 63,030 60,050
61 62,489 50,060
62 68,800 25,382
63 61,960 9,565
元 64,300 2,085
2 63,432 (9,689)
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【鳥巣注】
昭和50年(1975)から平成2年(1990)まで仲良く発行してきた2種類の国債。
「4条債(建設国債)」のこの間の発行額は98兆578億円。
「特例債(赤字国債)」は同じく76兆2714億円。税収不足を補うためには発行。こちらのほうは、基本的に政府資産としては残らず消えて行ったことになります。
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4条債(建設国債)/特例債(赤字国債)
3 67,300 -
4 95,360 -
5 161,740 -
6 123,457 <33,337>
7 164,401 <28,511>
8 107,070 <18,796>
9 99,400 85,180
10 170,500 169,500
11 131,660 243,476
12 111,380 218,660
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【鳥巣注】
平成3年(1991)から平成12年(2000)までの10年の間、
「4条債(建設国債)」は大量に発行されていきます。
平成5年(1993)の16兆円、平成7年(1995)の16兆円、平成10年(1998)の17兆円など、スゴイです。
計123兆2268億円。
「特例債(赤字国債)」。
こちらも平成10年(1998)に17兆、平成11年(1999)には24兆、平成12年(2000)に22兆。
赤字補てんのために国債を計79兆7460億円発行しました。
平成9年(1997)には四大証券のひとつ山一証券が自主廃業するなど倒産が続出。
私も取材したので覚えています。
私の知人の経営者は、
「あの頃、”日本は潰れるのではないか”と言われていた」
と振り返ります。
小林慶一郎・一橋経済研究所教授・キャノングローバル戦略研究所主幹が、
「今から10年ほど前、霞が関でも”もう駄目だ”と深刻に議論をしていた」
と述べるのは、この時期のことだと推察されます。
平成11年(1999)2月、日本銀行は短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することを決定。当時の速水優日本銀行総裁が「金利ゼロでもいい」と発言したことから「ゼロ金利政策」と呼ばれるようになりました。
金融庁も”空売り規制”に乗り出しています。
そこを乗り切ったのは、まだ体力があったんでしょうね。
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4条債(建設国債)/特例債(赤字国債)
13 90,760 209,240
14 91,480 258,200
15 66,930 286,520
16 87,040 267,860
17 77,620 235,070
18 64,150 210,550
19 60,440 193,380
20 69,750 261,930
21 150,110 384,440
22 63,530 379,500
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【鳥巣注】
平成13(2001)から平成22年(2010)までの10年間。
「4条債(建設国債)」は計82兆1810億円。
こちらはまだ道路などが残っている。
「特例債(赤字国債)」に至っては、なんと計268兆8690億円。
税収不足の穴埋めとはいえ、
これだけのおカネが、どこへ消えてしまったのでしょう。
国債費、社会保障費への歳出負担が重くのしかかってきたのは事実です。
そして、
発表します!
「4条債(建設国債)」の累計が313兆1258億円。
「特例債(赤字国債)」の累計が424兆8864億円。
総トータル738兆122億円。
また、国債発行による借金には、上記の「4条債」「特例債」以外にも「政府短期証券(106兆281億円)」、「交付公債(4496億円)」、「出資・拠出国債(1兆7671億円)」、「株式会社日本政策投資銀行危機対応業務国債(1兆3500億円)」、「日本国有鉄道清算事業等承継国債(7254億円)」などがあります。
全てをひっくるめて計算してみましょう。
848兆3324億円。
これが、国債発行による借金の総額です。
「国債」以外による借金もあります。
トホホ。
財務省債務管理レポートによると、平成21年度末で「借入金」が56兆4063億円。
また「借換債」も、満期償還期に、現金による返済ができないために、借換債を発行して返済をしているもので”債務”には変わりはありません。
ちなみに、
「「平成23年度3月末では、
『普通国債』<*財務省が四半期ごとに発表している「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」における定義に基づく、長期・中期・短期の国債=「4条債(建設国債)+「特例債(赤字国債)」>
のトータルは636兆円、
うち借換債は402兆円。
4条債は、60兆で、借換債分は186兆。
特例債は、174兆、借換債分は216兆」
(財務省理財局)
繰り返します。
「普通国債費」636兆円のうち402兆円が借り換えです。
残りの234兆円が未償還分などの理由で残っていますが、このままではやがて全てを借り換えにしていくしかなくなる。
主計局は、
「借金で逃げている状態。
このままの状態がいつまでも続くなど、
夢のような話はない」
と述べました。
普通国債は、、
借金の63%余りを借り換えで先延ばしにしている実態が分かります。
「借入金」を足して904兆7387億円。
ここまでが、明確な借金と言ってよいのではないでしょうか。
他に「政府保証債務」というものが存在します。
地方公共団体や独立行政法人などに貸し付けるために債券を発行。
平成21年度末で、46兆5960億円と計上されています。
貸付なので、いずれ返済されるものです。
という観点に立ち、
「政府保証債は、政府の債務には入っていません」
(財務省主計局)
もっとも、
「政府保証第25回地方公共団体金融機構債券
発行額 400億円」
の公募欄には、
「元利金支払保証 元金および利息の支払については日本国政府により保証されている」と記載されている。
”政府保証だが、政府の債務ではない(いや、債務にカウントはしない)”
という、日本流の玉虫色のロジックになるのでしょう。
万が一の事も考えて「政府保証債務」を加えると、平成21年度末で合計951兆3347億円になります。
ただし日本銀行は”時価”、財務省は”簿価”で計算。
日銀の時価計算の方が債務も多くなります。)
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PS①
「国と地方の債務残高」
これも財務省HPに掲載されています。
それによると、
「平成23年度末
国
普通国債残高 668兆円程度
対GDP比 138%
(*平成23年度末で普通国債も含めたトータルの債務は692兆円程度になる見込み)
地方
債務 200兆円程度
対GDP比 41%
国・地方合計 892兆円程度
対GDP比 184%程度
(注)
1、GDPは、平成20年度までは実績値、22年度は実績見込み、23年度は政府見通しによる。
2、平成20年度末の( )内の値は翌年度借換のための前倒債発行額を除いた計数。
平成22年度末及び23年度末の( )内の値は、翌年度借換のための前倒債限度額を除いた計数。
3、交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金については、その償還の負担分に応じて、国と地方に分
割して計上している。なお、平成19年度初をもってそれまでの国負担分借入金残高の全額を一般会計に承継したため、平成19年度末以降の同特会の借入金残高は全額地方負担分(34兆円程度)である。
4、このほか、平成23年度末の財政投融資特別会計国債残高は119兆円程度。
財務省主計局によると、
「国は、
①普通国債<「4条債(建設国債)」+「特例債(赤字国債)」>
②借入金
③交付国債
④出資・拠出国債
⑤承継国債<「株式会社日本政策投資銀行危機対応業務国債」+「日本高速道路保有・債務返済機構債」>
地方は、
①借入金(特別会計)
②地方債
③公益企業債(一般会計)」
以上の項目が盛り込まれているそうです。
ちなみに、
「普通国債債務残高」
私が積算した
「738兆円」
と
財務省発表の
「668兆円程度」
との間に、
「70兆円」の差が生じています。
「償還したものもありますので、
その差が出ているのではないでしょうか」
(財務省主計局)
借金が増えていく事ばかり考えていると、
毎年一般会計から8~10兆円の現金償還(返済)分があり、その分を差し引かなければならないことをつい忘れてしまいます。