「下山さん、すごいよねぇ~!強烈。スナックで働き始めたとかって、普通、幼稚園の集まりで出さない話題じゃない?」
「ま、下山さんだから」
「確かに顔立ちは綺麗だけど、意外と膨(ふく)よかだし。本人は他のママさんに比べてすごく若いって自慢するけどミサちゃんと3歳しか違わないしね?」
「ははは…(何となく一緒くたにされてるけど私とあなたは7歳違います)」
「声、大きいし目立ちたがりなんだろうね。わざとみんなに聞こえるように話すよね?
晴人君を怒るときもやけに大袈裟だし。旦那はガテン系の仕事には全然見えない大人しい優しそうなイケメンなのが驚いちゃうけど、成す術なし…って感じでだまーってるよね」
「晴人君、確かに少しチョロだけどあんなにしょっちゅう怒るほどではないかな~って気はするかな~」
「ただみんなに注目されたいだけだよ。そんな大声で言わなくてもっていうのがしょっちゅうだもん。晴人君は多動とかって感じじゃないと思うんだよねぇ。子供っぽいだけだよね。乱暴でもないし、顔も可愛いのにね」
「…なんかちょっと、どんな子に育つのかな~って気になる」
「本人は悪い子じゃないのに、お母さんがあんなせいで、ね?」
「ヘビースモーカーなのか知らないけど門から出た途端、スパスパ吸い始めるのは止めて欲しいよね。副流煙来てるよね」
「驚くほど軽いの吸ってるしね」
「そうなの?」
美佐子が頷く。
「それもアピール?何のアピールか知らないけど。ちょい悪アピール?」
「ヤンキーかって感じだよね」
「まぁ、でも面白いから気になって見ちゃうんだよねぇ」
「わかる~。
何この人?って思うけど、害はないからね~」
順子は思うところのある表情に変わり、一呼吸置いて
「ちょっとさ、思うんだけど。
森さんて気分屋だよねぇ?自分からランチを言い出しておいて突然来なかったよね、この間。まぁ、基本ファミレスだからドタキャンでも全然問題ないんだけど、時間になっても来ないからこっちからLINEしたら
”ごめ~ん。実家の手伝い、頼まれちゃって。次回は参加するので今日は欠席します”だって。普通、連絡するよね?当日、予定が入ったとしても」
「まぁね、確かに~。
キャラ的に許しちゃうけどね~」
「でも、3回目だよね」
「まぁね。でもおじいちゃん、口うるさいって言ってたし。言うようにしないと喧嘩になるって言ってたし、親孝行は大切だからね~」
「嘘ついてるわけじゃないんだろうけど(実は、疑わしい)。何が何でも来て欲しいとかいうのじゃないけど、嘘ついてドタキャンされるってのは嫌なんだよね。
それに。こないだの掃除機のクレームの話、ちょっとびっくりだった」
「あ~、あれはヤバいよね。思い切りクレーマーだよね~、ハハ…」
「ちゃ~んと窓絞めてから電話したって捲(まく)し立てる気、満々だよね。
まぁ、せっかく買った高い掃除機が保証期間が切れてからすぐに動かなくなるってのは確かに頭に来るとは思うけど」
「あのメーカー、吸引力すごそうだしおしゃれっぽいから試してみたくはなるよね~。故障が多いってのはよく聞く話だけど」
「掃除機ならうちで使ってるパナソニックの紙パック式が一番だと思うよ。ヘッドが外れて隙間もすいすいだよ~」
「サイクロン式ってゴミが溜まるとこに髪の毛が挟まって気持ち悪いし、手入れしないと吸引力が落ちそうだよね~。
こないだ中村さん家にお邪魔したとき、食べこぼしをササッと掃除機するのを見ててすごく軽そうだったから持たせて貰ったでしょ?そしたら本当に軽くて驚いたもん。うちは今はサイクロン式を使ってるけど、次はこれにしよ!って思った」
「でしょ~!紙パック代なんて意外と掛からないよ。だいたいちょっと前までみんな紙パックだったでしょ?だいたい掃除機なんて毎日掛けるもんでもないし」
順子は一層、真顔で
「森さんてさ、面白いし良い人なんだと思うけど、不安定だよね。
なんか前に言ってたじゃない?ヒナタちゃんたちを怒ってて通報されたって?
あたしだって元弘のこと、大っきい声で怒っちゃうときあるけどさすがにそれはないよ。よっぽどってことだよね?
雰囲気で誤魔化されちゃうけど結構、何考えてるか判らないと思うし導火線がかなり短い方だと思わない?」
「そう?」
「米嚙(こめか)みに青筋が浮き立つのが見える感じがするっていうか」
「ん~?」
「この間、ちょっと口が滑らか過ぎちゃって。人のことを言えないって判っているけど体型のこと悪乗りし過ぎた言い方になっちゃったのね?そしたらほんと、サーって。アニメみたいに顔色が変わっちゃって。
”どう言い返してやろうか?!”って頭の中がグルグルしてるのがはっきり判った。黒目が動いてたから。口もわなわなしてて、森さんと険悪になるのはイヤだから
”ごめん、他人(ひと)のこと全然言えないのについふざけ過ぎちゃった!”って急いで取り繕って」
確かにそれは他人を怒らせるようなことを言っておきながら相手によっては、その相手が心中に穏やかではない物を封じ込めた大人の対応で怒ってない様を装う素振りまで愉しむ順子でもマズいと思うほどの雰囲気だった。
「ネタじゃないの?森さんは話しを盛りそうな気がする。隣に聞こえると嫌だから窓を閉めるだけじゃない?うちだってそこまで大声を出すわけじゃないけど、怒るときは窓閉めるよ。前、道路だから。一応」
「う~ん。そうなのかな~?」
赤信号で車が停止し、つられたように珍しく会話が途切れた。前方に不穏な雰囲気の一筋の薄明光線が見えているけれど、運命に導かれているふたりの本能は警鐘を鳴らさなかった。
「それ、ネックレス。買って貰ったの?」
「あ、いや~。誕生日プレゼントで」
「ティファニー?」
「まさか、違うよ~。普通にノーブランド」
「いくらくらい?」
「3万(本当は19万3千円)ちょい?」
「いいんじゃない?手頃な値段の方が買って貰い易いよね」
また、一呼吸あったが今度は会話が途切れたというよりも話したくてうずうずしていることによるものだった。
「久保田さん、びっくりしたよね~」
さすがに良心の持ち合わせはある美佐子は顔色こそ変えずにいたけれどどう反応して良いものか考え倦(あぐね)、黙って前方を見詰めた。