・ひとみをささげる
朝が近づくにつれて、雨は小降りになった。日が昇るころには、川を氾濫させるかと思われた豪雨はすっかりなりをひそめていた。
七日七晩続いた豪雨は、結局いけにえ一人で丸くおさまったのだろう。けれども、考える。村人たちが、あと一日だけ耐えることにしたならば、果たして今日の天気は雨だったのだろうか? 水底の彼女は、ぼんやりと髪を揺らめかせながらそんなことを思った。そんなもの、考えるだけ無駄だ。いけにえはささげられ、彼女は晴れて水神の花嫁になった。
見上げる水面には、まばゆい光の反射がきらめいていた。
村人は、決して彼女のことをいけにえだとは言わなかった。水神様に嫁入りするのだ。そう言って絢爛な衣装を見繕い、髪を結い、嫁入り道具と献上品をそろえた。それも今となってはすべて無駄だった。上衣は水流に持っていかれてしまった。かんざしは指の間をすり抜けていった。献上品その他は目に入りもしなかった。きっと海まで行ってしまっただろう。
「なんだか滑稽だ」
彼女はささやいて、空気の泡を吐き出した。
真っ直ぐに水面へと向かう泡を見つめる。小魚の群れが視界の端をかすめていく。
微笑んだ彼女の視界を、ゆったりと水を切る龍が横切った。
名前を持たない生き物達の話
彼らに名前はない。何故なら彼らにとって、個を示すことに意味などないからだ。
彼らに近づくことは、名前を失うことを意味する。
教えてはいけない。人のままでありたいならば。
深く響く声で、演説するように彼女は語った。最後に、つぶやくように付け加える。
「私はもう、手遅れだからね。君には、人のままでいてほしいから」
そうしてようやく、彼女が苗字を名乗らない理由を知った。
名前しかない世界の話
「どうしてサヴァンなんて呼ばれなきゃいけないの。私は学者じゃないし、天才でもないわ」
りんごを掴んで、少女は不満げにため息をついた。エプロンのポケットから顔を出した「白うさぎ」が、とても困った様子で首を傾けた。
「うん、わかってるよ。でもね、ここに来た人はみんなサヴァン。不思議の国に迷い込むのはいつもアリス。それとおんなじ」
「君は白うさぎ。私はアリス。それ以上は必要ない ってこと?
不思議の国に迷い込んだアリス達は、みんな私と同じ気持ちだったでしょうね」
サヴァンはそう言って、半分になったリンゴを「白うさぎ」に押し付けた。真っ白なうろこと小さな前足、そして長いしっぽを持った「白うさぎ」は、嬉しそうにリンゴに噛り付いた。
リンゴの芯まで飲み込んでしまうと、「白うさぎ」は小さく鳴き声を上げた。
「ここでは、名前のないものは存在できないんだよ」
彼らに名前はない。何故なら彼らにとって、個を示すことに意味などないからだ。
彼らに近づくことは、名前を失うことを意味する。
教えてはいけない。人のままでありたいならば。
深く響く声で、演説するように彼女は語った。最後に、つぶやくように付け加える。
「私はもう、手遅れだからね。君には、人のままでいてほしいから」
そうしてようやく、彼女が苗字を名乗らない理由を知った。
名前しかない世界の話
「どうしてサヴァンなんて呼ばれなきゃいけないの。私は学者じゃないし、天才でもないわ」
りんごを掴んで、少女は不満げにため息をついた。エプロンのポケットから顔を出した「白うさぎ」が、とても困った様子で首を傾けた。
「うん、わかってるよ。でもね、ここに来た人はみんなサヴァン。不思議の国に迷い込むのはいつもアリス。それとおんなじ」
「君は白うさぎ。私はアリス。それ以上は必要ない ってこと?
不思議の国に迷い込んだアリス達は、みんな私と同じ気持ちだったでしょうね」
サヴァンはそう言って、半分になったリンゴを「白うさぎ」に押し付けた。真っ白なうろこと小さな前足、そして長いしっぽを持った「白うさぎ」は、嬉しそうにリンゴに噛り付いた。
リンゴの芯まで飲み込んでしまうと、「白うさぎ」は小さく鳴き声を上げた。
「ここでは、名前のないものは存在できないんだよ」
寝起きに大急ぎで夢の内容をメモしたのに文字が糸ミミズみたいで読めない。
がんばって解読しました。こんな内容のゲームだったか、小説だったかがあった気がします。なんだったかな?
夏休み。一部屋空いているから、と招かれた田舎の一軒家。物置だというそこには古びた勉強机が一つだけ、ぽつんと置かれていた。浮かび上がる、そこに住んでいた「誰か」の面影。そこにいったい誰が居たのか。推理? 青春モノ。どこか懐かしい、田舎の夏休みをあなたに。
がんばって解読しました。こんな内容のゲームだったか、小説だったかがあった気がします。なんだったかな?
夏休み。一部屋空いているから、と招かれた田舎の一軒家。物置だというそこには古びた勉強机が一つだけ、ぽつんと置かれていた。浮かび上がる、そこに住んでいた「誰か」の面影。そこにいったい誰が居たのか。推理? 青春モノ。どこか懐かしい、田舎の夏休みをあなたに。
