ぼくのまちには勇者のつるぎがある。
3丁目のだがし屋さんの裏庭に。

そのつるぎは先っぽだけ地面にささっている。
いつか抜いてくれる勇者があられるのを待っているって、だがし屋のおばあちゃんが言っていた。

つるぎの近くには「ちょうせんしゃ求む。一回10円」って書かれた立て札も立っているんだ。

たとえ抜けなくても、ざんねん賞としてあめ玉がもらえる。
そのあめ玉はおばあちゃんとくせいのりんご味で、とてもおいしいから、それを目当てにしたちょうせんしゃも多いみたい。

今日もたくさんの小学生が、抜くじゅんばんを待って列を作っている。
それと同じくらいのかんきゃくもいる。
みんな、勇者のつるぎが抜けるしゅんかんを見たいんだと思う。

ぼくもその一人。

でも、ぼくはいつも見ているだけ。
クラスで一番の力持ちのタケシくんでも抜けなかったんだから、ぼくが抜けるはずがない。

だからぼくはちょうせんしたことがない。

その日もぼくはだがし屋に行った。
つるぎの周りにはいつにもましてかんきゃくが集まっていた。
のぞき込むとちょうせんしゃは大人だった。
それも力が強そうな大きな男の人。

ぼくが知る限り、大人がちょうせんしたことはない。
小学生にまじってちょうせんするのは はずかしいからなんだと思う。

初めての大人のちょうせんしゃの登場に、ついに抜けるんじゃないかとみんなが見守っていた。

その男の人は、大きな手でつるぎをつかむと力をこめて引っぱった。
でも抜ける様子はない。
歯をくいしばって、真っ赤な顔で引っぱっている。
でも抜けない。

そのうちにあきらめたみたいで、こそこそと小さくなりながら帰っていった。

それを見ていたみんなはがっかりした様子だった。
大人でも抜けないんじゃ、小学生が抜けるはずはない。
そう言いながらみんな帰って行ってしまった。

裏庭に残ったのはぼく一人。
大人でも抜けなかったつるぎが、なぜか気になってしょうがない。

初めてぼくはちょうせんしてみようかと思った。
いまならだれも見ていないし、たとえ抜けなくてもはずかしくない。

おばあちゃんに10円を払って、ぼくはつるぎの前に立った。

そしておもいっきり力を込めて引っぱった。
つるぎはピクリとも動かない。
それでも、おもいっきり引っぱった。

すると、つるぎが少しだけ動いた気がした。

そのまま引っぱり続けると、1センチくらい動いた。
このまま抜いてやる。
そう思って、ぼくは力を振りしぼった。

でも、いくら力をこめてもそれ以上は動かなかった。

くやしかった。
でもなぜかはればれとした気持ちになった。

だれも抜けなかったつるぎを1センチも動かしたんだから。

明日はみんなの前でちょうせんしようと思う。
たとえ抜けなくてもあきらめない。
絶対いつか抜いてやる。

ぼくはおばあちゃんからざんねん賞のあめ玉をもらった。
初めてなめたおばあちゃん特製のりんご味のあめは、あまずっぱくてとてもおいしかった。

 

 

ということで「父」でした。

なんとなく書きました。

児童書を想定して書いたので、所々ひらがなです。

漢字って読みやすいんですね。