いまから60年前、東京オリンピックの開催に合わせるかのように、日本のデザイナーがグローバル化を視野に入れたファッショングループを立ち上げた。森英恵(写真)をはじめ中村乃武夫や中島弘子など8人が、グループ結成を発表する形で合同ショーを開いた。

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 日本の服飾業界では、フランスやイタリアなどのデザインを手本にファッション化していたが、とり入れるだけがノウではないと、オリンピックという国際的行事をきっかけにデザイナー8名が結束、“日本のデザインを輸出させよう”と東京コレクショングループ(高級洋裁店組合)を結成、その披露を兼ねて10日、日比谷の日生会館で春夏の作品80点を発表した。

 

 メンバーは中村乃武夫、諸岡美津子、森英恵、細野久、松田はる江、水野正夫、中島弘子、鈴木宏子の8名で、自分のアトリエをもっている人たちである。学校関係のいわゆる学級派は入っていない。個性をもったそれぞれの作品が一堂に集められ、作品の優劣が如実に現わされたのは面白い。ショーの形式は、モデルが着付けてフロアをねり歩くだけで、解説はいっさい入らない。静かな雰囲気の中ですすめられた。

 中村乃武夫は美しく、新しさをねらいスーツからカクテル・ドレスまでプレーンな形で表現している。諸岡美津子は組み合わせ服をテーマに合理性をねらっている。森英恵は着やすい服を美しく着ることに工夫をこらし、またおしゃれの時間のなかでのドレス。

 細野久は珊瑚礁と名付けて珊瑚礁にくりひろげられる光と影の交錯を技巧的な巧みさで表現しているのが目立った。

 能をテーマに水野正夫、黄八丈やお召の和服地を使って手芸的なこまさかさの作品を創り上げた松田はる江、鋭角的エレガンスを主題とした中島弘子、女らしさの追求の鈴木宏子など意欲的なものであるが、テクニシャンの細野久、モード追求のきびしい中村乃武夫、鈴木宏子はショーをひきしめたものにした。

 その他生地の組み合わせ、色の変化を楽しませたもの。発足の趣旨が海外輸出にあったが、まずは国内PRに方向が向けられている。

 作品が独創的でも着られなければならないということは当たり前であるが、アフタヌーン・ドレスやカクテル・ドレスになると作品が淋しくなるが、一人10点の作品で底の見えるデザイナーもあり、レパートリーのせまさは見逃せなかった。

 しかし、デザイナーがデザインの輸出をはかったという意欲は高く買われるだろう。前売筋(小売店)の現状ではパリ・モードやイタリア・モードへの偏重はかなり強く、これらの厚いカベを打ち破ることが大きな課題である。

 また輸出を図ることから絹が最も多く使われ、友禅模様、ちりめん、黄八丈、お召、紬風のものが目立ち、色目は空色、あい、カナリア色、オレンジ、ブラウン、ベージュ、若草色、黒、白が豊富であった。(日本繊維新聞 1964年=昭和39年1月17日)