東京都青少年育成条例改正案についての補足 | 私の耳は底ぢから

東京都青少年育成条例改正案についての補足

先日の記事に昨年末に改正案が提出されたと書きましたが、実際に提出されたのは先月のようですね。訂正いたします。

それから、表現の自由についての記述でちょっと訂正しましたが、これは公共の福祉とかいうやつが絡んでくるからです。
まず、表現の自由は何よりも優先されなければなりませんが、それによって不利益を被る人が権利を主張する自由もまた保障されなければならない。
例えば「ナントカ人は劣等民族だ」と主張するのが自由なら、それに大して抗議するのも自由だということです。
その利害が衝突したときのルールが公共の福祉というやつです。
実際衝突した場合には、例えば柳美里の裁判を見てもわかる通り、まず作家側が負けるというのが現状であります。しかし、原則的にはどちらの権利も対等にあるのです。

そういう意味では、以下のサイトの署名活動は非常に危険なので署名は控えた方がよろしい。

架空創作表現規制禁止の法制化を求める署名

どこがおかしいのかというと、そもそも憲法21条に表現の自由が謳われているので、法制化の必要がないからです。
さらに"署名プロジェクトの詳細"を読むと、明らかに問題のある項目が二つあります。

3:表現規制を主張する団体に対しては即時解散を命令する
7:架空創作表現弾圧者監視委員会を設け、創作表現の過剰な規制が
行われていないかを監視する


3は上でも触れましたが、「表現規制を主張する団体」にも表現の自由は認められなければならない。それに即時解散を要求するのは結社の自由を侵しているので明らかにこの法律は憲法違反です。
また、7については今回の規制派の勢力とやってることが同じです。立場の違う表現弾圧になってしまいます。

他にも突っ込みたいことは色々ありますが、政治家に対する署名というのは最低限紙に書いてあって、住所と氏名が明記されたものでなくては効果がありません。そもそも署名の締め切りが今年の5月8日になっているので、3月末に成立が決まってしまう今回の条例に関しては意味がありません。

署名する場合は以下のサイトの方が信頼性が高いです。
創作物の規制/単純所持規制に反対する請願署名市民有志

今回の騒動に関してわかりやすくまとまっているものはこちら。
東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト
細かいことですが現在の都議会では、改正案を提出した石原慎太郎が都知事なので自民公明が与党です。野党の民主共産と比べると議員の数はほぼ拮抗しているので条例が通るかどうかは五分五分です。


今回の規制問題で頭が痛いのは、凌辱ゲームを始めとして、漫画の過激な性表現や暴力表現といった表立って反対しづらいコンテンツが対象となっている点です。声高に規制反対を叫べば、ロリコンのキモオタとして社会から抹殺されて終わりです。逆に体制側の強権発動の口実になってしまいます。そんな中、理詰めで矢面に立ってくれている社民党の保坂氏(前回の衆院選で落選)や民主党の枝野氏(行政刷新担当大臣)といった政治家には頭が下がります。とにかくどんなにヘドが出そうな気持ち悪い思想であっても、それが公表される自由に関しては保証されなければなりません。この条例には直接的に表現を規制するとは書いてありませんが、万が一ジャンプやマガジンの漫画が有害図書のレッテルを貼られれば、書店のアダルトコーナーやアダルトショップでしか販売できなくなるのです。有害図書に指定されなくても、出版社や取次(問屋さん)や書店が自主規制に及べば同様の結果になってしまいます。読んでくれる人がいなければ、表現なんて意味がありません。表現の幅が狭まることは確実で、サブカルコンテンツは衰退していきます。

参考までに、首相官邸のホームページに掲載されている、「教育改革国民会議」の委員発言の要旨をリンクしておきます。これは10年前の森内閣での会議ではありますが、政治家や官僚一般が国民に対して何を考えているのかよくわかると思います。ていうかこれ削除しなくていいのかよ。民主党(を中心とする連立政権)が自公政権と同じ轍を踏まないことを祈ります。
一人一人が取り組む人間性教育の具体策(委員発言の概要)

最後にドイツの詩人ハインリッヒ・ハイネの言葉を残してさよならしましょう。

本を焼く国家は、やがて人を焼くようになる

以上。