有栖川有栖『作家小説』 | 私の耳は底ぢから

有栖川有栖『作家小説』

有栖川 有栖
作家小説

お勧め度:★★★★★


ライトな本格ミステリを得意とする有栖川有栖の、

「作家」をテーマにした連作短編集。


作家というのは不思議な商売だ。

ほとんど収入がなくても、仕事がなくても、先生と

呼ばれて、偉そうにしていられる。重労働をしなく

ても、高収入を得られる。人のアイデアをパクれば

立派な作品になる。ろくに本を読んでいない奴でも

作家になりたがる。


そんな作家の魅力に迫ったのがこの短編集。

全体的にはコミカルな作品が多いが、ここに収めら

れた8編の挿話にはどれも、作家の苦悩とか、粉飾

とか、狂気とかいったものがこめられていて、心の深

いところにある何かをうがつ。


うだつのあがらない作家が、担当編集者の用意した

「ライティング・マシーン」によって、一躍人気作家に

なる「書く機械」。


締め切りに追われた作家が、本格トリックを考えよう

としてくだらないアイデアをあーでもないこーでもない

とひねくりだす「締切二日前」。


売れない作家が、初めて開いたサイン会での受難を

描く「サイン会の憂鬱」。


作家漫才師による気楽なおしゃべり「作家漫才」。


中でも、私が感銘を受けたのが「気骨先生」だ。

高校生二人が、地元の小説家にインタヴューをして

心の交流を深めていく、という内容。

ここで作者は「出版不況」の問題に触れている。

今は本がどんどん売れなくなっていく時代だ、なの

に業界はどんどん新刊書を出し続けている。再販

制度と委託販売制度によって、出版界はいつ崩壊

してもおかしくない……。

「それでも君は作家になりたいのかね」

老いた作家は問う。少年は

「はい」

と答える。爽やかな読後感があり、やはり本が好き

な人間は、いつの時代にもいるのだなあという希望

を持たせてくれる一編である。